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『ああ、誠人君。今どこにいるのかな?』
「学校の近くにあるショッピングモールッスけど……どうかしました?」
『ならちょうど良かった。そっちに機竜の反応が察知されてね。無差別なテロ行為かもしれないから、止めてくれるかな?』
「はあ」
冷静な口調で告げられている所為だろう。事の重要性を理解できず、生返事を送っていた。
ややあって、
「はあ!? 機竜!? こんな町中にッスか!?」
『うん、どうもそうらしい。人が乗ってるらしいんだけど、誰かまでは分からなかった』
「っ、分かりました。湊さんに相談して――」
刹那。
モール全体を揺らす轟音と激震に、フードコートは巻き込まれた。
「来やがった……!」
『誠人君、急いで撃退に向かってくれ。こんな場所で暴れられたんじゃ、君の信条にも反するだろう?』
「もちろんッスよ!」
通話を切る。
入れ違いで聞こえる、都市市民の悲鳴と混乱。ショッピングモールには避難を促す放送が響き、徐々に人々は行動し始めていた。
「せ、先輩! 何が起こってるの!?」
「放送聞けば分かるだろ? ……とにかく危ねえから、湊さんと一緒にモールから出ろ。敵の方は俺が相手をする」
「あ、危ないって! 魔術都市にだって、治安部隊はいるでしょ? その人たちに任せておけば――」
「他力本願は趣味じゃねえんでな。お前のことぐらい、きちっと俺に守らせろ」
「え――」
我ながら恥ずかしい台詞だが、お陰で紫音は硬直している。
信頼を込めて肩を叩いてから、俺は逃げる人々の群れを掻き分けて走った。
まあ本当なら、きちんと紫音の隣にいてやるべきなんだろう。彼女だって現在進行形で不安なはずだ。安心を与える点において、他人に任せるのは決して間違いじゃない。
しかし、その選択は不思議と出てこなかった。
理屈は単純で馬鹿馬鹿しい。
こっちの方が、格好いいと思っただけだ。
『あは、アハハハハ!』
スピーカー越しの声は、癪に障るとしか説明のしようがなく。
エントランスにいる鋼の影。
直視した瞬間、身体は始祖の力に染まっていた。
『来たな泥棒! 私の機竜で相手をしてやる!』
『アンタが作ったわけでもないだろ……!』
フードコートがある二階の高さから、敵の詳細を直視する。
身体の大きさは俺より少し大きい程度。前回戦った機竜と比べれば、かなりの小型だ。
一見する限り兄・竜明の姿はない。堅い装甲の中に隠れているのか、遠隔操作しているのか。――敵の性格と高揚ぶりから、恐らくは前者だろう。
落下速度と翼の勢いを使い、右の爪で頭部を狙う。
無論、
「っ!」
消えた。
日暮が言っていた解術装甲。本来なら切り裂かれるはずの守りは、その役割を存分に果たしていた。