4
「んー、明確な時期を聞かれると困るかなあ。気付いた時には好きだったし……理由も、特にないって言えば無いかも」
「え」
「まあ気にしなくていいよ思うよー? アタシは好きだから一緒にいたんじゃなくて、一緒にいたから好きになったんだし――過ごした時間だってさ、先輩以上の人はいないんだよ?」
「そ、そうか」
「お、先輩顔赤いよ? いまの一言で篭絡されちゃったかな?」
「ん、んなわけないだろ!」
嘘です、ドキドキしました。
これ以上顔を見ていると、本格的にどうにかなってしまいそうな気がする。勘付かれるのは覚悟の上で、俺はわざとらしく目を逸らした。
楽しそうに覗き込んでくる、幼馴染。
あーあ、妹だなんて知らなければよかったのに。そうすれば紫音と、もっと楽しい青春が送れたはずだ。
しかしこの場合、誰を恨めばいいんだろう? 兄妹として生まれた運命か? 人並みの道徳観を教え込んだ教育者か?
「はあ……」
もう少し俺に根性があれば、ここまで世間体を意識することもなかったろうに。
もちろん、道徳を犯すことが正しいとは言わない。ただ、自分の本意を道徳で阻害されるのが、少し苦しいだけのことで。
「先輩はどのメニューにするんですか?」
「え? ああ、そうだな……」
看板を見上げていると、紫音がいつの間にかくっ付いてくる。
何気なく相談してくる彼女は、とても自然体で。
ずっとこの生活が続けばいい――なんて夢物語を、俺に熱望させるのだった。
―――――――――
結局、紫音はおろか湊まで同じ物を頼んでしまった。
テーブルの上に、三つも同じ皿が乗っているのは意外と笑えてくる。家族でも友人でも、こんな光景は普通見ないだろうに。
「はぁー、お腹いっぱい」
椅子へ凭れかかりながら、紫音は膨らんだ腹を叩いている。
女の子らしくない態度に叱りたくなるが、俺は苦笑するだけに留めておいた。一番一言いうべき湊も、同じ姿勢をしていることだし。
水の入っている紙コップを空にして、携帯の時計を確認する。
「寮の門限って何時までですか?」
「8時だったわよ、確か。あまりのんびりしてる時間はないわね」
「んじゃ、行くッスか?」
同じく水を飲んでいる湊は、そのまま頷いた。
紫音の方はもうコップが空で、他二人の分を回収し始めている。あとは全員のトレイと皿を持っていけば終了だ。
「じゃあ誠人君、よろしく」
「え、俺が三つともッスか?」
「そりゃあそうでしょう。私と紫音は先に駐車場行ってるから」
「へーい」
言われた通り、俺は回収口に向かって歩き始める。
ピークの時間が近付き始めたのか、フードコートの人気は増加傾向にあった。俺達が注文した店も、列が順調に伸びつつある。
彼らにちょっとした同情を抱きながら、回収口へトレイを置いた。
と、
「あ?」
またもや電話が。
送り主はやっぱり日暮だ。最後の会話から一時間も経っていないだろうに、伝え忘れたことでもあるんだろうか?
携帯を通話モードに切り替え、定型的なあいさつを口にする。