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インキュバスは本来、女性の夢を餌にして生きている魔術師の一族だ。男性の夢についてはサキュバスの担当。同性を狙うことは、基本的に有り得ないと聞く。
「でも、よく引き受けてもらえたッスね。向こうの始祖、悪魔でしょ? かなりプライドが高いって聞いたんスけど……」
『ドラゴンを始祖にしてる君の台詞じゃないと思うけど……今回のインキュバスさんは、文句言いつつ快く引き受けてくれたさ。お金もしっかり取られたけど』
「ど、どう考えても怒ってるッスよね!?」
『だったのかな……ま、気にしないでおこう。それよりも、昨日話した貴族の処刑についてなんだけど』
「あ、は、はいっ」
肩が跳ねる。
日暮が話を持ち出してくるのであれば、何かしらの情報は掴んだんだろう。内容は怖くもあったし、改めて決意を抱かせるものだった。
小さく咳払いをして、彼はいつもの口調で語っていく。
『やはりアレは、紫音を何かしらの手段として使うものらしいんだ。……驚かないで聞いてほしい。妹はどうも、アンドロイドらしいんだ』
「――」
気遣いする必要がなくなったと思うべきか、反応に困ると思うべきか。
日暮の方も、受話口から感じる空気に違和感を覚えたらしい。眉間に皺を作っているのが分かるような声で、もう一度呼びかけてくる。
『もしかして、知ってた?』
「えっと、まあ。さっき本人から聞いたッス」
『な、なんだ、そうだったのか。じゃあ、彼女を追跡してるらしい姉妹機のことも知ってるのかい?』
「らしい相手とは戦いましたね。機竜とかいう兵器まで持ち出して」
『ああ、魔科学のやつだね。存在については僕の方でも掴んでるよ』
また、紙をめくる音。
どうも今回は新情報が満載らしい。本当に俺が知らない情報であることを祈るとしよう。
『えっとね、機竜は最新鋭の試作型戦闘機、らしい。戦闘機ってジャンルが適切なのかどうかは分からないけど、とにかくそうなっている』
「能力については? なんか、魔術を無効化される結界みたいなのありましたが」
『ああ、解術装甲のことだね。これも試作段階らしいけど、ほぼすべての機竜に搭載されてる。対策は必須かな』
「うげ……」
面倒以外のなんでもない。いつだってあんな、天然物を投げつけられる状態にはないだろうし。
そもそも機竜の機動性が高ければ、あの戦術は通用しなくなる。
素手で装甲を破壊できればいいんだが、実行すればこっちの身体が駄目になるだろう。




