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「ぶ、部長、気味の悪い冗談はいい加減にしてください! 妹さんに怒られますよ?」
『うぐ、それはマズイな。紫音はますます可愛くなってきてるんだから、ストレスを与えるような真似はしちゃいけない』
「……白々しいですねえ。鏡見てきたらどうッスか?」
『ふむ、今日も美男子が立っていたよ』
ちょうど外にでもいるんだろう。受話口からは彼の笑い声以外、人々の雑多な声が混ざっている。
「……まさか今日、市街地で何かやる気ッスか?」
『そんな馬鹿なことはしないよ。確かに僕達は貴族派、つまり反政府勢力だけど、一般人は絶対に巻き込まない方針だろう? 君だって喜んで賛同したじゃないか』
「――でしたね。すみません、疑ったりして」
『気にしない気にしない』
それから直ぐ、紫音の兄は電話を切る。長時間の通話は、監視側の目を引くと知っているからだろう。
迎えが来るのは、いつもなら夜の10時ごろ。
学生らしく勉強でもしたいところだが、生憎そこまで優等生じゃない。
「溜まってる小説でも読むか」
肉じゃがを冷蔵庫に入れてから、部屋に向かう。
窓から差し込む夕日は、昨日よりも赤かった。
――――――――――――
午後十時。
すっかり日も落ちた暗闇の中、俺は相変わらず本を読んでいる。
といっても、いま読んでいるのは小説ではなく漫画の方だ。暇つぶしと思って懐かしいタイトルを発掘したら、思いのほか読み耽ってしまった。
インターホンが鳴る。
「うわ、やっべ!」
準備も何もしていない。出る前に入ろうと思った風呂も、入れてからそのまんまだ。
こうなったら帰った後に入るしかあるまい。俺は家の電気を消しつつ、外出の準備と整える。まあ靴下を穿いて、家の戸締りを確認するだけの仕事だが。
私服に着替えようと考えたが、やっぱり人は待たせたくない。
上着を脱いだ夏服状態の制服で、ドタバタしながら玄関へ。ドアに張ってあるガラスの向こうには、ボンヤリとした人の輪郭が映っていた。
ご近所さんの時に聞いた電子音はない。
ロックなんて、もうハッキングされた後だろう。
「すみません、待たせて!」
「ぐおっ!?」
鈍い、嫌な音。
急いでドアを開けた所為だろう。自分の過ちに気付いた時には、鼻を押さえている誰かがいた。
「げっ! 部長、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、大丈夫。美女の裸を直視した時のような衝撃だよ……」
「えっと、つまり鼻血が出そうだと? いや、もう出てます?」
「大丈夫、まだ出てないよ……」
それでも結構な衝撃だったようで、紫音の兄・日暮は覚束ない足取りだ。