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「さあ、好きなものを食べなさい!」
自信満々で断言する保護者・湊だが、発言には誇張した部分がないとも言えない。
彼女が食事にと選んだ場所は、たくさんの席が並んでいる。それこそ、視界の隅から隅までびっしりだ。景色を切り取ってしまえば、そこそこに高いレストランと錯覚させることも出来たろう。
しかし現実は非情である。
フードコート。
湊が連れてきたのは、近くのショッピングモールにあるフードコートだった。
平日ということもあって比較的席は空いている。……お陰で困った点はないんだが、なんだろう。車で移動していた最中、淡い期待を抱いていた自分を叱りたくなる。
「? どうしたの先輩。呆然としているけど」
「自分の馬鹿さ加減に呆れてるだけだ。……で、何でもいいんスか?」
「ええ、女に二言はないわ。後でレシート渡してくれれば、お金は払うから」
「了解ッス」
湊は荷物番をするとのことで、まず俺と紫音が先陣を切る。
さて、どうしたものか。これといって好き嫌いはないので、極端に言えばどこでも構わない。長蛇の列が出来ている店もほとんどないし。
「お肉だよね」
「は?」
「先輩、男の子なんだからさ。やっぱりお肉を食べるんだよね? アタシもそれにしよっかなー」
「いや、別に会わせる必要ないだろ……」
ていうか彼女、食事っているんだろうか?
尋ねてみたい気もするが、場所が場所だし内容が内容だ。これまで通りが一番なんだから、改めて聞くのは憚られる。
「――ん?」
そんな時だった。ポケットに入っている携帯電話が震えたのは。
紫音に一言入れて、俺は早足でフードコートから移動する。ピークに比べて人が少ないとはいえ、雑多な音の中で会話するのは難しい。
ディスプレイに映る名前は、紫音の兄であり湊の実子、日暮だった。
「もしもし?」
『ああ、僕だよ僕。ところでさ、ちょっとお金が必要で――』
「詐欺は後にしてください。俺、そろそろ飯なんで」
『へえ、早いね。じゃあさっさと言うことは言っておこうか』
受話口の向こう、何やら紙を漁るような音が聞こえる。新しい情報でも手に入れたんだろう。
日暮が準備をしている間、俺の頭は紫音のことで一杯だった。
彼にも説明するべきなのかどうか――いや、第三者の俺があれこれ口を挟むのはおかしい。限度ってもんがある。
『まず最初に、君の顔を見た魔術師についてね。隠蔽のため、可能な限り暗示はかけさせた。腕のいい夢魔がやったから、多分解除はされないと思う』
「助かります。……にしても便利ッスね、他人の記憶を操れるって」
『でも彼らにすると、大したことはないらしいよ。魔力を起点に干渉するから、魔術師にしか通用しないらしいしね』
「……ちなみにその夢魔、サキュバスですか?」
『いんや、男性型夢魔のインキュバスだね。今回のターゲットは男性のみだったから、すごい不満そうだったよ。美少女に入りてぇんだよ! ってさ』
「あとでお礼言っといてください……」
きっと、かなりの苦痛だったろう。




