8
「誠人君も可愛い子ねえ。殴るのはOKでも殺すのはちょっと、ってところ?」
「まあ……って、俺のことはいいッスよ。とにかく紫音のことは、現時点じゃ考えられな――」
「だったら、妹であることを教えて上げてもいいんじゃない?」
残忍にすら聞こえる提案。
でも湊にすれば、一つの優しさではあるんだろう。
「いつまでも隠してたら、反動も大きくなるわよ? 紫音が誠人君のことを愛してるのは、嘘偽りない事実なんだし」
「そりゃそうッスけど……」
「ああもう、じれったいわね! とにかく男なんだから責任は取りなさい! あの子を惚れさせた責任を!」
「つまり、付き合うか付き合わないかさっさと決めろと?」
「ええ。理解の早い生徒は好きよ?」
しかし、無茶は無茶だ。
「あ」
心で思い、口にも出そうとするが、一瞬のうちに湊の姿は消えている。
残された俺は、誰もいない虚空へと手を伸ばすだけ。人気のない場所では余計に寂しく感じられる。
――でも彼女の言っていることは、いずれ向き合うべき問題だ。
避けるのはそれこそ無責任。サキュバスの件うんぬんの前に、俺は紫音に対して行動を起こさねばならないだろう。
「……ていうかアイツがサキュバスなのって、機甲都市でつけられた能力なのかね?」
もともと、生粋の魔術師だった連中の町だ。それぐらいの技術、研究が行われていても不思議じゃない。
だからもう一つの情報も、なおさら考えねばならなくなる。
処刑。
彼女は、貴族を殺すための道具と称されて運ばれた。いつまでも放置できる問題じゃない。
「っつっても、本人は覚えてないって言ってたし……」
機甲都市に聞くか? まあ接触する機会が皆無なんだが。
洞窟で遭遇したもう一人の紫音。彼女を捕縛できていれば、解決の糸口も見えたろうに。
「――ま、今は食事の方か」
俺は気合を入れるため、両手で頬を軽く叩く。
早く、責任が取れる人間になるために。




