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「はい?」


「あ、別に難しいことを聞くわけじゃないから安心して頂戴。単に、紫音のことよ」


「……」


 直前の会話がある所為だろうか。俺は身体を堅くして、湊の質問に備える。

 彼女は辺りを見回し、人影がないことを再確認。

 小さな咳払いを合図にして、俺の両肩を掴んできた。


「いつになったらウチの子をお嫁さんに貰ってくれるのかしら?」


「は、はぁ!? なに言ってんスか!?」


「? そりゃあ愛情の確認よ。いくら兄妹とはいえ、あんなに無邪気で可愛い子がいるんですもの。ヤることヤりたくなるのが常識ない?」


「それを世間では非常識って言わないッスか!?」


 言う筈だ。そうであってくれ。

 だが俺の願いも虚しく、湊はキョトンと首を傾げている。くそっ、間違いなく親子だ。


「常識なんて、それを押しつけてくる方が非常識だわ。モラルハラスメントって、知ってるでしょ?」


「知ってますけど、知ってますけど!」


「じゃあ問題ないわね」


 敵の鉄壁ぶりには、舌を巻くしかなかった。

 一方の湊は、どうなの!? とばかりに顔を近付けてくる。両肩に掛かっている力は思いのほか強く、簡単に逃げ出すことは出来なかった。


「あ、あのですね、紫音は俺の妹ッスよ? 付き合うとかそんなの、考えられるわけないでしょ」


「でもあの子は全然そう思ってないわよ? そもそもアンドロイドなんだったら、倫理的な問題も少しはクリアできるじゃない」


「そ、そりゃ、そうかもしれませんけど! いきなり言われたって……」


 俺は少なくとも、ずっと紫音を肉親として見てきた。

 一日足らずで見方を変えろなんて、正直なところ無茶がある。やるにしたって、ちょっと節操が無さすぎだ。


「悪いことだらけじゃないでしょう? サキュバスとしての力だって、借りれるじゃない」


「な、なんで湊さんがそのこと知ってるんスか!?」


「貴方がウトウトしてる間に、電車の中で聞いたのよ。理由についてもね」


「……」


 あの馬鹿。少しはプライバシーを考えろ。

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