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案外と簡単に、湊は捕まえることが出来た。
「……」
話の内容が内容なので、俺の寮室に連れてきて数分。彼女は、黙って娘の告白を聞いている。
どんな感情を抱いているのか、表情からはサッパリ読みとれない。
それでも紫音は誠実に語り続けていく。母親と同じで、顔色は少しも変わっていない。俺の時とは違う、力強い決意が読み取れる。
「――だから、アタシはお母さんの本当の娘じゃないの。今まで黙っててごめんなさい」
「……そうだったの」
湊はようやく口を開き、娘と視線を合わせる。
その後、静かに紫音の頭を撫でた。
「お、お母さん?」
「何があっても貴方は私の娘よ。――血の繋がりなんて、関係ないに決まってるじゃない。紫音は私達と家族として過ごしてきた、その事実さえあれば十分よ」
「あ、ありがとうっ!」
「お礼を言われる程じゃないわよ?」
ねえ? と湊は、俺に同意を求めてきた。
迷いもせずに肯んじる。確かに彼女からすれば、血の繋がっていない親子関係は是とするものだ。紫音が考えている以上に。
「よし、それじゃあ今日は外食にでもしましょうか。寮の門限もあるから、少し早めにね」
「ホント!? 先輩も一緒にいい!?」
「もちろんよ。まあ彼の分は、彼が代金を持つのが条件ね」
詐欺かよ。
紫音は気にした様子もなく、喜色満面で両腕を上げている。何だか断り辛い。神霊石を砕く仕事で、確かに金は持っているけど。
「あ、あの、本当に俺は自腹ッスか?」
「やぁね、冗談よ。私は君の保護者みたいなもんなんだし、出すに決まってるじゃない。本当なら日暮も連れて行きたいところだけど――」
「難しいでしょうね」
彼はまだ外にいる。許可がなければ、自由に出入り出来ないのが魔術都市だ。
「私はまだ仕事があるから、少し待っててね。ああ、誠人君には頼みたいことがあるから、一緒に来てくれる?」
「は、はあ?」
善は急げとばかりに立ち上がった湊。俺は彼女を追うが、紫音はピクリとも動かない。むしろ落ち着ききって、行ってらっしゃいと手を振っている。
まさか部屋に居座る気だろうか? きちんと部屋は与えられている筈だが。
その辺りを確認しようとして、俺は止める。返答は予想通りになるだろうし。
むしろ、教員の方に聞いた方が早いだろう。
「湊さん、アイツの部屋って……」
「ちゃんと用意してあるけど、いらないって言うんじゃない? うちの学校は男女同室に駄目だしする規則もないし」
「緩すぎでしょ……」
呆れながら廊下を進んでいくと、確かにカップルらしき男女が部屋から出てきたりしている。
普通、こういうのは制限するんじゃないだろうか? 許可を出してしまう学校側の懐には、驚きを隠しきれない。
「ところで湊さん、俺に何を――」
「ちょっと待って」
言いつつ、彼女はズンズンと寮の外に向かう。
階段を下りて一階に、そこから裏口へと俺達は向かった。調子に乗っている後輩を先輩達が呼びだしそうな、薄暗い場所へ。
「さて誠人君、私が頼みたいのは一つ。これからする質問に答えて欲しいの」




