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「――あの、さ」


 先に動き出した紫音。

 ぎこちない口調で、彼女は俯いた顔を上げてくる。


「ごめんなさい」


「……」


「し、信じられないかもしれないけど、アタシは本物だよ。新崎紫音、本人。だから――」


「分かってる」


「えっ?」


 信じられないのは当人らしく、俺の言葉で目を丸くしている。


 一方の俺は、不思議と葛藤が消えていた。


 だって、彼女が本物だと言ったんだから。聞くのは怖かったけど、相手を信じるのはそれよりずっと簡単だと思う。

 これまで、紫音を本気で疑ったことはない。

 今までの自分でいればいいんだから、こんなに簡単な話があるか。


「ほ、本当に? 信じてくれるの?」


「おいおい、お前が自分から言ったんだぞ? そこは喜ぶところだろ」


「そ、そうかな?」


 不安そうな紫音に、俺は大きな首肯を見せつける。

 ――他人の不安を拭う方法なんて、俺は詳しくない。ただこの場に限っては、自信を持ってもらうことが正解な気がする。

 止めようとする彼女を無視して、ベッドから降りた。

 復活した身体を確かめるため、軽いストレッチを始めてみる。隣に座っていたままの彼女は、唖然としたまま動かない。


「そういや俺の仕事どうなったんだ? 神霊石、壊しきれてないんだが」


「別の人に頼み直したって、お母さんが。その人も随分驚いてたみたいだよ。今回のはすごく大きいって」


「やっぱりか……」


 果たしてどんな原因があるのか。素人並の知識で、色々と絞ってみる。

 神霊石は大気中の魔力に晒され続けた結果、鉱物が変異したものだ。サイズだって変化するし、周囲の環境に影響を与えることもある。

 だからあの洞窟は妙でもあった。

 巨大な神霊石と高密度の魔力以外、何もおかしなところがない。普通、魔獣の一匹か二匹は存在していそうだが。


「むう」


「せ、先輩、何考えてるの?」


「ん? いや、あの神霊石について、ちょっとな」


「よ、よかったら、アタシにも教えてくれない? 神霊石についてはあんまり知らなくてさ。学校の授業でもやらないでしょ?」


「……それもそうか。まあ俺だって個人的に調べた程度だから、そこまで詳しい話は出来んぞ?」


「別に大丈夫だよ。その、先輩が話してくれるなら」


「――」


 紫音は視線を合わせようとしなかった。良心の重みに耐えきれず、見た目の通り折れそうになっている。

 仕方ない。気分が沈んでいる時は、少し別の話題でリラックスすることも重要だろうし。

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