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「ぐっ!」
投げ出される紫音の偽物。
生かしておくだけの道理はなく、俺は竜砲の狙いを定める。そもそも機械なら、身体の大部分が消し飛んだって問題はなかろう。
魔力を吸う。
直後。
『!?』
竜化が強引に解除された。
高い位置からの落下だが、魔術で四肢を強化してやり過ごす。……目を見開くしかない展開だったが、幸いにも偽物は取り逃がしていない。
機甲都市な情報源になり得る相手だ。絶対に捕まえて――
「っ!?」
二度目の驚きが沸き上がった。
魔力酔い。
身体に上手く力が入らない。目の前に敵がいるっていうのに、立ち上がることさえ出来やしかなかった。
「あはは、残念だね。アタシは機械の身体だから、魔力酔いなんて関係ないし」
「く……」
「それにしても、あんなやり方されるなんて驚いたなー。ま、壊すってほどじゃないかったけどさ」
偽物は俺を無視して、機竜の方へと歩み寄った。
鉄の巨体は仰向けで倒れている。背中の方でエンジンのようなものが駆動しているが、神霊石を押し退けるほどではない。彼女はまだ、この場を脱する手段を欠いている。
どうにかして。
どうにかして動けば、彼女が作り出された経緯も、理由も知ることが出来る。
「――ま、いっか」
「?」
あっさりと機竜に背を向け、偽物はこちらへと近付いてきた。
そして。
「ごっ……!」
掬い上げるように、俺の身体を蹴り飛ばす。
人間に蹴られたとは思えないほどの激痛だった。肉体が鋼鉄で出来ているからだろう。あるいは、他に仕掛けでもあるのか。
俺は魔術を行使して対処しようとするが、酔いが原因で発動できない。
「アタシ、せめて君は殺して来いって言われてるからさ。大人しく死んでね? 頭砕けば、普通に死ぬでしょ?」
「っ……」
「竜の力を継承してたって、所詮は人間だもんねえ」
アハハ、と冷たい笑みを浮かべながら、偽物の足が俺の頭に乗る。
音を立てて、頭蓋の圧迫が始まった。
「やめてっ!!」
その声が、聞こえるまでは。
動かせる範囲で視界を動かせば、紫音と数名の魔術師がいる。直前に会った警備員よりも、重厚な装備で身を包んだエリート達だ。
唯一生身の紫音が、余計に浮いて見えてしまう。
「あれ? 二号じゃん」
「――」
偽物は言った。
俺が信じている、本物の紫音に向かって。




