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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第三章 日常に牙は潜む
30/98

10

「ぐっ!」


 投げ出される紫音の偽物。

 生かしておくだけの道理はなく、俺は竜砲の狙いを定める。そもそも機械なら、身体の大部分が消し飛んだって問題はなかろう。


 魔力を吸う。

 直後。


『!?』


 竜化が強引に解除された。

 高い位置からの落下だが、魔術で四肢を強化してやり過ごす。……目を見開くしかない展開だったが、幸いにも偽物は取り逃がしていない。

 機甲都市な情報源になり得る相手だ。絶対に捕まえて――


「っ!?」


 二度目の驚きが沸き上がった。

 魔力酔い。

 身体に上手く力が入らない。目の前に敵がいるっていうのに、立ち上がることさえ出来やしかなかった。


「あはは、残念だね。アタシは機械の身体だから、魔力酔いなんて関係ないし」


「く……」


「それにしても、あんなやり方されるなんて驚いたなー。ま、壊すってほどじゃないかったけどさ」


 偽物は俺を無視して、機竜の方へと歩み寄った。

 鉄の巨体は仰向けで倒れている。背中の方でエンジンのようなものが駆動しているが、神霊石を押し退けるほどではない。彼女はまだ、この場を脱する手段を欠いている。

 どうにかして。

 どうにかして動けば、彼女が作り出された経緯も、理由も知ることが出来る。


「――ま、いっか」


「?」


 あっさりと機竜に背を向け、偽物はこちらへと近付いてきた。

 そして。


「ごっ……!」


 すくい上げるように、俺の身体を蹴り飛ばす。

 人間に蹴られたとは思えないほどの激痛だった。肉体が鋼鉄で出来ているからだろう。あるいは、他に仕掛けでもあるのか。

 俺は魔術を行使して対処しようとするが、酔いが原因で発動できない。


「アタシ、せめて君は殺して来いって言われてるからさ。大人しく死んでね? 頭砕けば、普通に死ぬでしょ?」


「っ……」


「竜の力を継承してたって、所詮は人間だもんねえ」


 アハハ、と冷たい笑みを浮かべながら、偽物の足が俺の頭に乗る。

 音を立てて、頭蓋の圧迫が始まった。


「やめてっ!!」


 その声が、聞こえるまでは。

 動かせる範囲で視界を動かせば、紫音と数名の魔術師がいる。直前に会った警備員よりも、重厚な装備で身を包んだエリート達だ。

 唯一生身の紫音が、余計に浮いて見えてしまう。


「あれ? 二号じゃん」


「――」


 偽物は言った。

 俺が信じている、本物の紫音に向かって。

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