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眩む視界、薄れる意識。
その中でも五感は無事で、俺は大きく息を吸う。
全身を駆け巡る高密度の魔力。力の中心は喉の奥、特大の一撃を叩き出すための器官にある。
『ふ――!』
凝縮したエネルギーは、まるで彗星のように。
一筋の閃光と化して、機竜の顔面へと吸い込まれていく。
――もちろん、結果は味気ないものだった。
無効化こそされなかったものの、四方八方に飛び散って洞窟を破壊する。機竜に直撃しかなったのが本当に惜しい。
「あはは、今の光、竜砲っていうんだっけ?、魔力で構成されたものでしょ? それじゃあこの子には通用しないよ」
『――ああ、だろうな』
俺は冷静に事実を受け入れる。こうなった以上、竜化はほとんど役に立たないだろうな、とも。
まあ、あくまでもほとんどだ。
攻める手段が、まったく無くなったわけじゃない。
「なにを――?」
機竜から目を逸らし、戦場となっている空洞の端へ跳躍する。
竜砲で崩れた壁から取り出すのは一つだけ。これを使う上でなら、竜化はその価値を発揮できる。
人間の膂力じゃ到底支えきれない、巨大な岩を持ち上げる。
「まさか……!」
『魔力が通ってるものは無効化するんだろ? だったら天然の岩は無理だよな?』
「っ、そんなもので機竜の装甲が破れるわけ――」
『焦り気味が説得力がねぇよ……!』
全力をもって投擲する。
偽物の紫音は回避するよう指示したが、反応し切れないのは誰もが想像するところ。巨岩は機竜の胴めがけて、弧を描きながら落ちていく。
響く轟音は一度きり。
敵はよろめいたものの、倒れるほどには至らなかった。肩に乗っている紫音は大きな安堵を零す。
ああ、安心してりゃあいいだろう。
こっちにはもっと、特大の武器があるんだから。
『ふん!』
神霊石。
いくら魔力をため込んでいるとはいえ、基本は鉱石だ。機竜が持っている防御能力では、下敷きになることを防げない――!
「ちょ……!?」
倒れる神霊石と、狼狽を露わにする紫音。
機竜はどうにかして逃げようとするが、本格的に動き出すまでには至らず。
轟音と共に、石の下敷きとなった。