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「そ、読んで字のごとく機竜だね。本物さんの身体をいろいろ調べてさ、それで作ったの。どう? そっくりでしょ?」
「……」
そっくり、なんてもんじゃない。
体格は俺が竜化した時の倍以上がある。神霊石の大きさと比べても遜色ないぐらいだ。機甲都市の品であることは間違いないだろう。
オマケに、洞窟の天井を貫くほどの火力。
巨体が何の問題もなく通れる穴は、俺だったら絶対に開けられない。
「それじゃあ実験開始だね。あ、逃げようものなら町が焼き払われるだけだから、よろしく」
言いつつ、紫音は足元へ伸びてきた機竜の手に乗る。
俺はそんな様子を見ながら、苛立ちを募らせるだけだった。
「お前……!」
あっちには、本物がいるんだぞ。
問答の時間は終わりだ。俺はいつも通りの感覚で、ドラゴンの外郭を作り上げる。二体の偽物を、まとめて駆逐するために。
黒い、竜。
太陽の光を裂き、黒銀の翼が顕現する――!
『行くぞ……!』
肉体が切り替わった一瞬。数倍の体格を持つ機竜に向け、黒の一閃が突っ走った。
敵の反応は鈍い。巨体だからか、それとも基準としてそうなのか。懐へ潜り込んだ時に、ヤツはようやく片手を上げているぐらいだった。
拍子抜けにもほどがある。動力部がどこにあるか知らないが、一撃で破壊してやろう。
鉄よりも高い甲殻に包まれた拳を、機竜の胸元へ滑り込ませる。
『!?』
成果は出ない。
消えている。
機竜に触れるか触れないかの距離で、俺の身体が消えている……!?
「残念でしたー。この子、魔力で構成されたものは一切通用しないよ。――その身体、実態があるっていっても魔術だもんね?」
『っ……!』
駄目もとで追加の一撃叩き込もうとするが、死角から飛んできた光に妨害された。
即座に飛び退くと、その正体が目に入る。
光の弾丸。魔術により作り出された、魔弾と称される軍勢が襲いかかる。
撃っているのはもちろん機竜だった。身体の動きに反して、魔弾を生成する速度はかなり早い。威力の程も、掠るだけで分かってしまう。
『くそ……っ!』
どうにかして機能を無効化しなければ。このままでは徐々に追い詰められる。
魔弾を躱し、叩き落としながら、俺はVの字に進路を変えた。
弾の密度が上がるが構わない。自慢の甲殻が徐々に剥がれていくが、それだって無視してやる。致命傷さえ受けなければ後はどうだってなる筈だ……!
『――!』
俺の身体を丸ごと吹き飛ばすような、巨大な一撃。
避けるだけの余裕もなく、真っ向から激突する。




