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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第三章 日常に牙は潜む
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 奥に進んでいく度、辺りの空気はどんどん広く、そして重くなっていく。まるで身体の一部が水に浸かっているような感覚だ。


「こりゃ、確かに大物だな……」


 少なくとも俺の経験では一番。もし並の魔術師が同行していたら、すでに失神していてもおかしくない。


 足取りは勝手に慎重さを帯びる。これだけ魔力の濃度が高ければ、魔獣の類が出現してきても無理はないだろう。

 竜化する気構えで、俺は一歩一歩前に進んだ。

 突然、開けた場所に出る。


「――っと、これか」


 十メートル強はありそうな天井。そこを打ち上げるように、堂々とそびえ立つ鉱石が一つ。

 神霊石だ。青白い光を帯びており、表面には光が渦巻くように動いている。

 デカイ。これまでだったら、珍しくても五メートルぐらいの大きさだった。が、目算するところその倍である。これは確かに酔うわけだ。


 さて、問題はどうやって破壊するか。

 五メートル級の神霊石でも、破壊しきるのに一時間はかかる。これも同じか、それ以上を予定した方がいいだろう。


「でも時間かかると、俺まで酔うしな……」


 そこが一番の課題だった。

 とにかく行動しよう。何もしないでいれば、その分時間は無駄になる。こうして付近にいるだけで、タイムリミットは削られているわけだし。


 俺は身体の内側へ意識を向け、竜化の準備に入る。

 直後だった。


「あー、ちょっとストップ」


 聞こえてはならない声が、俺の耳に入ったのは。

 巨大な神霊石の横。暗闇の中から、小柄な少女が歩いてくる。


「紫音……!」


「んー、違うよ? アタシは、君の知ってるあの子じゃない」


「っ、偽物か」


 ご明察、と満足気に破顔して、彼女は神霊石の横に立つ。

 これといった照明は持っていない。機械らしく、暗闇でも目が効くんだろうか?


「――なにしに来た?」


「むむ、怒ってる? 昨夜戦った時は怒ってなかったのに」


「あれは例外だぞ。アイツが決めたことなら、背中ぐらいは押してやろうと思ってただけだ」


「その割には、好意を向けられても答える気がなそうだね?」


「……耳の痛い指摘だな、おい」


 相手の会話に乗っかりつつ、俺は敵の状況を分析する。

 偽物の周囲に味方の姿はない。こっちに敵意があることは承知の上だろうし、一対一で戦うつもりなんだろう。

 ――が、魔術師用の甲冑を持ってきていない。女の細腕でやり合う気か?


「やだなあ、勘違いしないでよ。アタシが直に戦うわけないでしょ?」


「……」


「アタシはあくまでもコントローラーというか、見届け役というか。君の相手は別だからね?」


「は……?」


 直後だった。

 神霊石の頭上。光を閉ざしていた分厚い岩盤が、木っ端みじんに吹き飛んだのは。


「な――」


 聞こえたのは、耳を聾するような金属音。

 ゆっくりと降りてくる姿には、嫌というほど見覚えがあった。

 といっても形だけ。身体の表面は、すべて金属で作られている。鎧というわけではなく、肉体の一部として。

 向けられる双眸には無機質な光。これはどう見ても、


「機械の竜……!?」

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