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「アタシの恋人になってくれるんなら、先輩の希望を叶えてあげる。お釣りが返ってくるような条件だね?」
「いやいやいや!!」
全力で否定する。
彼女は知らないんだろうが、俺達は血の繋がった兄妹だ。そんなこと、出来るわけないだろうに。
「な、なんでー!? やっぱり先輩は女嫌いなの!? EDなの!?」
「大声で言うなっての! あらぬ誤解が広がるだろ!」
「ってことは、疚しいことがあるんだ?」
「ないっ!」
まあ兄妹であることを隠している点は、疚しいといえば疚しいかもしれない。
ともあれ大声で喋った所為か、何人かの注目を集めてしまっている。……逃げるのは逆効果かもしれないし、ここはじっと耐えしのごうか。
「くそっ、変な噂が広がったら紫音のせいだぞ」
「大丈夫、安心して。アタシがその前に、先輩と付き合ってる既成事実を流すから」
「グレードアップしてるだろ!?」
まあまあ、と俺を宥めようとする紫音。
食事を再会すると、中庭の入り口に一人の女性が見えた。
俺より早く気付いた紫音は、立ち上がって手を振っている。もうその段階で、相手が誰なのかを確認する必要はなかった。
「どうしたのお母さん? アタシに用事?」
「ええ、紫音が楽しんでるか見にきたし……誠人君にも、仕事のお話があるのよね」
「俺ッスか?」
となると、いつのものやつか。
俺は買っておいたスポーツドリンクを喉に流して、膨らんだ腹と一緒に立ち上がる。
「くああぁ……」
身体を休息へと戻すような大あくび。
確かに、目の皮は弛んでいそうだ。




