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「ふうん……」
納得してくれたようで、紫音は何度も頷いている。
「格好悪いねー、先輩」
容赦ない事実を叩きつけてくれたわけだが。
「おっしゃる通りで……」
「男だったらビシッと決めなくちゃ! サキュバスなんかに頼ってないで、自力で解決するべきじゃない?」
「うっ」
おっしゃる通りで。
俺はパンを食うことも忘れて、彼女の言葉を反芻する。ビシッと決めろ、自分で解決。確かにベストな選択だし、他人に縋るのは甘えでしかない。
でも方法は?
十数年積み立てた感情を、どうやったら覆せる?
「――ま、いいよ。アタシが何とかしてあげる!」
「は、はあ? お前なに言って……」
「いやアタシ、サキュバスだから」
「!?」
衝撃の告白へ目を見張ると同時に、俺は内心でかぶりを振った。
有り得ない。ドラゴンに対する適正なら理解できるが、サキュバスは完全に畑違いの筈だ。
「し、紫音、そもそもサキュバスがどんな存在か分かってるのか?」
「知ってるってばー! 先輩と同じ始祖魔術の使い手で、夢の中に出てくるんでしょ? 戦闘力皆無の珍しいタイプなんだってね」
「あ、ああ、そうだ」
俺は疑いの目を晴らさないまま、彼女の正解に首肯する。
古来、魔術師は神や幻獣の子孫だとされていた。しかし代を追うごとに特性を失い、ただの人に近くなってしまった経緯を持つ。
このため魔術師たちは、生まれてくる子に先祖帰りを起こそうとした。
その結果が、俺や兄貴。紫音だって、ある程度は同じ現象を起こしている筈。
「先輩は先祖帰り起こしてる魔術師だもん。アタシだって、始祖魔術のことは調べてるよ?」
「……で、サキュバスって証拠は?」
「今から寝よっか? 腹の皮張って目の皮たるむ、って言うでしょ? それに今なら限定で、アタシの膝枕付き!」
「遠慮します」
「えー!」
やるんだったら夜でも構わないんだし。
にしても、紫音は自信満々の表情だ。ひょっとすると本当に、サキュバスとしての能力を持っているんだろうか? ゲノム操作するようなものだと思うんだが……。
「――まあ仮に事実だとしたら、今夜改めて話す。夢の中でな」
「いいよ。あ、でも、やるんだったら条件付きね?」
「じょ、条件?」
嫌な予感しかせず、思わず上半身が引いていた。
紫音が浮かべる満面の笑みには、子供らしい無邪気さがある。イタズラを企んでいるのが一目で分かった。
「恋人」
「へ?」