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挨拶に対する反応は、意外にサッパリしていたと思う。
まあ当然だろう。学年こそ跨いだが、会っていない期間は半年とちょっとだ。俺個人としても、そう騒ぎ立てないのは気持ちの面で楽である。
「で、そっちはどうだった?」
時間は昼休み。
購買でパンを買ってきた俺と紫音は、中庭で同じ時間を過ごしている。
辺りには適度な人気があって、居心地の悪さを感じさせない。俺達がいようといまいと変わりない日常が、様々な場所で繰り返されていた。
もっとも。
紫音へ集まる視線だけは、俺がどうこう出来るものでもなかった。
「いやー、大変だったよ。もう質問攻めでさ。先輩との関係についても聞かれちゃった。えへへ」
「……なんて答えたんだ?」
「大声で言うのが難しい関係、って言っといたよ!」
要修正ということか。
彼女の自由奔放さに呆れながら、俺は購入したばかりの焼きそばパンを口に運ぶ。
別段、懐かしむような味ではなかった。昨日までだって、ほとんどの場合はこれ食ってたし。自販機で買った飲み物に至るまで同じである。
うん、いい加減飽きてきても良さそうだ。
しかし今さら変えるわけにもいかない。隣の紫音と交換するにしたって、勘繰られそうで嫌だし。
「むむ! 先輩、物欲しそうな目してない?」
「……してない。してないったらしてない」
「怪しいなー。あ、もしかして何日もお昼の内容が同じだから、飽きてきたんでしょ? そこでアタシの餡パンと取り換えっこしたいわけだね?」
「――」
さすが幼馴染様。よくご存じで。
思わず頷きたくなるが、直前でグッと堪えた。
「と、というかだな、お前弁当作らなかったのか? 俺に手料理をご馳走する、とか息巻いてただろ?」
「お、先輩はアタシの手料理が食べたいんだね? 分かった、明日から作ってみるよ。皆にも自慢しちゃおーっと」
「……」
墓穴を掘ったような、その上からさらに土を被せてしまったような。
いや落ち着け。昨日みたいに、一緒の部屋で寝ることはしばらくない筈だ。理性が音を立てて崩れていく事態にも陥らない筈。
だって学生寮だぞ? 男女が同じ部屋で生活するなんて、聞いたことがない。
「あ、そういえば先輩、あの話」
「? 何の話?」
「ほら、サキュバスを探してる理由。話そうとしてたでしょ? 教えてよー」




