表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第二章 新生活・魔術都市
20/98

11

 使っているシャンプーの匂いだろうか。甘い香りが漂ってきて、俺の理性を揺らしてきた。


「アタシ、こう見えて中身は大人だから。自分が置かれてる状況は分かってるし、先輩が守ってくれることも分かってるよ」


「ま、守るって、俺はそんな大それたこと――」


「してくれないの?」


「……」


 やっぱり紫音の目は俺にとって毒らしい。抜群の効果を持った、性質の悪い毒だ。

 俺達は階段の手前で分かれて、湊と一緒に二年の教室へと足を向ける。

 進んでいく間、話に出るのは紫音のことだった。


「ゴミ、って言ったんですってね、竜明君」


「頭に来る言い方でしたよ。……あの人は事情を知った上で言ってるわけですから、俺も我慢できなくて」


「紫音が失敗作だってことを?」


「はい」


 淡白な返答が出て、俺はなぜか後悔していた。きっと、紫音に対して負い目があるからだろう。


 実家の始導院家は、ドラゴンの力を代々研究してきた。

 彼らは一つの結論として、自らの肉体へ竜の力を宿すことを決める。

 竜明も俺も、先代である父から力を受け継ぐための器だった。兄は正当な後継者として、俺は予備の存在として魔術の教育を受けている。


 だが、紫音は違った。


「……あの子は根本的に、始導院家の力が宿せないそうね」


「そうなんです、魔術師としての型が違うとか何とかで。そんな子供がいるのは恥だって、周りの大人は殺そうとしたらしいんスけど――」


「私が横槍を刺しちゃったわけだ」


 俺に物心がつく前の、ごく一部の人間しか知らない事実。

 紫音はお陰で、始導院家の習慣から解放された。湊には感謝をしてもしきれない。


「……最近、向こうから圧力かけてきたりしてるっスか?」


「このところはサッパリ。君のお父さんが亡くなって、あの家も力を失ったからね。大変なのはむしろ、誠人君の方じゃないの?」


「俺は大丈夫ッスよ。静かなもんです」


 竜明との関係を覗いて、だが。


「君の家に仕えてた人から、連絡来たりはしないの? 始導院家を復活させましょう、とかさ」


「いえまったく。そういう話は兄貴の方に行ってるんじゃないッスかね? あの人、家名に対する執着心強いですし」


「成程なあ……」


 喋っている間に、二年生の教室が並ぶ廊下にたどり着いた。

 ドアに貼られたガラスの向こうには、見知った顔がいくつかある。俺が来る情報は届いているのか、意外と落ち着いた空気感があった。


「じゃ、ここで待ってて。直ぐに呼ぶから」


「了解ッス」


 中に消えていく湊を見送って、俺はゆっくりと深呼吸する。すでに一度経験したことなのに、緊張感の方は拭い切れない。


「ん?」


 ふと外を見れば、中庭を挟んだ先に一年生の教室がある。

 紫音の姿はもちろんあった。辛うじて分かる表情は、いつのも彼女と違って堅苦しい。


 なんだ。あんな風に答えておきながら、しっかり緊張してるじゃないか。せっかくお守をする必要がないと思ったのに。


「――いや」


 違うか。どちらかと言えば、俺は喜んでいる。

 彼女を守ってやったり、手を差し伸べなければならないことに。相手が、普通の女の子だってことに。


 これは、一体どんな気持ちになるんだろう?


 愛情? 友情? あるいは支配欲?

 湊の呼ぶ声が聞こえるまで、頭の中はもんもんとしたままだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ