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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第二章 新生活・魔術都市
17/98

 ヴィーヴルの南側に、俺達の通う学校は建てられていた。


 霧月総合魔術学校。


 厳しい手荷物検査を終えて、久々に学校の敷地へと足を踏み入れる。

 校門には結構な人だかりが出来ていた。バスと一緒に装甲車が来れば、そりゃあ誰だって驚くだろう。ヴィーヴルの中までは、今の政府も滅多に干渉してこないし。


「えっと、始導院しどういん誠人君に、新崎にいざき紫音君だね?」


 降りてから直ぐ、一人の老教師が出迎えてくれた。

 俺と紫音は揃って頷くと、指示に従って教師の後をついていく。

 だが。


「そんなゴミを引き連れてどうしたのかな? 誠人」


 これ以上ない侮蔑をこめた、威圧的な声。

 装甲車という珍しい存在を見に来ていた生徒達は、全員が息を飲んでいる。一色触発の空気を、誰もが感じとっているんだろう。呑気にしているのは紫音だけだ。


 俺の前に来たのは、短い黒髪の青年。


 父親に似た顔立ちは一見温厚だが、裏に秘めた冷血さは隠せない。……こんな小物の場合は、ヒステリーに陥ってるだけ、と評するべきかもしれないが。


 始導院しどういん竜明たつあき

 すっかり変わってしまった、俺の兄。


「――おい、兄貴」


「うん?」


 友好なんて必要ない。兄弟の縁はとっくに切れている。

 そもそも。

 この人は、頭にくることを口にした。


「3秒やる、訂正しろ。――3」


「なに……? 私が一体、何を訂正しろと言うんだ?」


「2、1」


「おい、答えないか。でなければそこのゴミと一緒に――」


 足を弾く。

 竜化しての一歩は、足元に窪みを作るほどの力があった。


『ふ……!』


「ごっ――!?」


 殴る。

 竜明の身体は小石同然に吹っ飛んだ。慌てふためく教師陣。生徒達の方はまったく逆で、感心するような声すらある。


「き、貴様、実の兄に向って……!」


「弱い犬ほどよく吠える」


「なに!?」


 竜化を解除しつつ、俺は冷めきった目で竜明を睨む。

 ――でも正直、そこに敵意が籠っていたかは自信がなかった。逆に確証を持って言えるのは、胸に溜まった兄への同情と後悔だけ。

 懐かしい幼年期を思い出しながら、俺は言葉を続けた。


「負け犬は負け犬らしくしてろ。そんな意地もねえのか? アンタは」


「っ、言いたいのはそれだけか!?」


「いや、もう一つあるぞ」


 竜明は倒れたまま動かない。鼻から血を流したまま、必死にこちらを睨んでいる。

 もちろん、それだって負け犬の遠吠えだ。彼の胸倉を掴んだところで、抵抗されることはない。


「よくも俺の身内に暴言吐きやがったな。折角だからもう一発――」


「えっ、身内!?」


 拳を構えた直後に響く、黄色い声。

 両手を頬に当てた紫音は、心底うれしそうだった。

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