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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第二章 新生活・魔術都市
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 一般の人々から隔離されている、魔術の都。

 世界でも数える程しかないその都市は、もともと貴族達の町だった。が、内乱を期にその役割は一転。彼らを閉じ込めておく場所になる。


 なお、日本においては唯一の魔術都市だ。壁の外側で魔術都市行きが決定した日本人を、数多く収容している。


「……ねえ、あそこに入ったら一生出られないの?」


「そうでもないぞ。許可を取ればきちんと出られる。まあ人によっては監視自体が危険、ってぶち込まれた例もあるから、ケースバイケースだな」


「生活が楽になる、とは一概に言えない?」


「あー、まあ楽になることは楽になると思うぞ。ただ――」


 丁度いいことに、前後左右の窓からは装甲車が見える。

 彼らの目的はバスを包囲することに他ならない。ヴィーヴルに入るまでの間、脱走されては困るからだろう。


「――ま、こういうのがいるわけだ」


「なるほどね。……でもさ、大丈夫なの? 貴族系統の魔術師集めるってことは、強力な魔術師が集まるってことでしょ? 魔術都市の中から反撃されたりするんじゃ……」


「ああ、そこはきちんと考えてるぞ。都市を囲う壁には魔術が効かないし、上にも強力な結界が敷かれてるそうだ」


 ドラゴンでも突破できない、と有名だとか。

 でも、紫音はいまいち納得できなかったらしい。不満げに眉根を寄せながら、フロントガラスの向こうを凝視している。


「脱走とか反逆とか、すればいいのに。みんな納得してないんでしょ?」


「根っこの部分ではそうかもしれん。……でも、平穏な日常があったらどうだ? 今が幸せだとして、あえてそれをぶっ壊すヤツはいるのかね?」


「……普通の人は、しないんじゃないかな?」


「だろ?」


 生かさず、殺さず。

 当面の幸せを用意してやれば、反感は大きく軽減される。誰だって自分の命が一番大切なものだ。

 加えて、20年という時間もある。貴族の誇りに並々ならぬ情熱があっても、安定した環境を与え続ければ不満には繋がらない。

 生きようとする意思は、人間の中で一番力強いものだし。


 もっとも。

 生きることと活きることの間には、覆せない差が存在する。


「……」


 俺は活きたい。

 壁を見る度に抱く妄執が、頭の中で渦を巻いた。

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