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一般の人々から隔離されている、魔術の都。
世界でも数える程しかないその都市は、もともと貴族達の町だった。が、内乱を期にその役割は一転。彼らを閉じ込めておく場所になる。
なお、日本においては唯一の魔術都市だ。壁の外側で魔術都市行きが決定した日本人を、数多く収容している。
「……ねえ、あそこに入ったら一生出られないの?」
「そうでもないぞ。許可を取ればきちんと出られる。まあ人によっては監視自体が危険、ってぶち込まれた例もあるから、ケースバイケースだな」
「生活が楽になる、とは一概に言えない?」
「あー、まあ楽になることは楽になると思うぞ。ただ――」
丁度いいことに、前後左右の窓からは装甲車が見える。
彼らの目的はバスを包囲することに他ならない。ヴィーヴルに入るまでの間、脱走されては困るからだろう。
「――ま、こういうのがいるわけだ」
「なるほどね。……でもさ、大丈夫なの? 貴族系統の魔術師集めるってことは、強力な魔術師が集まるってことでしょ? 魔術都市の中から反撃されたりするんじゃ……」
「ああ、そこはきちんと考えてるぞ。都市を囲う壁には魔術が効かないし、上にも強力な結界が敷かれてるそうだ」
ドラゴンでも突破できない、と有名だとか。
でも、紫音はいまいち納得できなかったらしい。不満げに眉根を寄せながら、フロントガラスの向こうを凝視している。
「脱走とか反逆とか、すればいいのに。みんな納得してないんでしょ?」
「根っこの部分ではそうかもしれん。……でも、平穏な日常があったらどうだ? 今が幸せだとして、あえてそれをぶっ壊すヤツはいるのかね?」
「……普通の人は、しないんじゃないかな?」
「だろ?」
生かさず、殺さず。
当面の幸せを用意してやれば、反感は大きく軽減される。誰だって自分の命が一番大切なものだ。
加えて、20年という時間もある。貴族の誇りに並々ならぬ情熱があっても、安定した環境を与え続ければ不満には繋がらない。
生きようとする意思は、人間の中で一番力強いものだし。
もっとも。
生きることと活きることの間には、覆せない差が存在する。
「……」
俺は活きたい。
壁を見る度に抱く妄執が、頭の中で渦を巻いた。




