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「は?」
「先輩、サキュバス探してるんだよね? 女性型夢魔の、精神を操る魔術の使い手さんを」
「だ、誰から聞いた!?」
「お兄ちゃん」
あとでぶん殴ってやる。
まあ、問題ないと判断したからこそ話したんだろう。……日暮は胡散臭いところがあるので、面白半分で話した線もありそうだが。
「どうして探してるの? 先輩、何か精神的な悩みでもあるの?」
「……これ以上話すと、本格的に飯がまずくなるぞ」
「えー、それはやだ! 学校で改めて聞くことにする!」
「ああ、そうしろそうしろ」
もっとも、直ぐに知ることにはなるだろう。
これから向かうであろう学校には、原因の人物が存在するからだ。……まったく、考えるだけで憂鬱な気分になる。
「って、止め止め」
かぶりを振って、俺は嫌な記憶を頭の隅に片付けた。
話の軸は雑談に変わり、どこにでもあるような日常へと形を変える。
「あ、そうだ先輩、今度買い物一緒にいかない? ちょっと下着のサイズが合わなくなってきてさー」
「冗談で言ってるんだよな!?」
「んー、冗談の方がいいなら本気で言うし、本気の方がいいなら本気で連れてく」
勘弁してくれ。
紫音のマイペースっぷりに、俺は肩を落とすしかなかった。
――――――――――
魔術都市・ヴィーヴル
マンションの前に来たバスには、そんな名前がプリントされていた。
中には俺達と同じ制服を着た学生が数人。これから乗り込む側の方も、俺と紫音の他に数名の学生がいる。
「……なんだか、見られてるね! カップルに思われてるとか!?」
「いや、注目浴びてるのはお前だけだぞ……」
一番後ろの席に向かいながら、俺は溜め息混じりに言った。
なにせ紫音は容姿端麗な、文句のない美少女。
バスに乗っている生徒達は、男女問わず紫音へ興味を向けている。本人はそんな世間の反応にご満悦なようで、嬉しそうに頬を緩めていた。
「えへへ、これで先輩の株も上がるね! アタシみたいな子と一緒なんだもん!」
「因縁つけられそうで怖いぐらいなんだが……」
「なっ、なんで!? 美少女幼馴染を連れ歩いてるのは悪いことなの!? 先輩が素敵だってだけで――」
「あ、あのな、もう少し声抑えろよ」
「えー」
とか言いつつ、ボリュームそのものはダウンした。
しかし注目度の方は上昇する一方。人目に晒されるのは個人的に苦手なので、好ましい展開とは言えない。
「ところで先輩、これからどこ行くの? アタシ、詳しく聞いてないんだけど」
「向こう、壁が見えるだろ? あそこのだよ」
ほれ、と指差した先。高らかにそびえ立つ、鋼鉄の壁が見えている。
50メートルは超えているだろうか。その上には監視用のヘリコプターが飛んでおり、外からも分かるほど物々しい雰囲気がある。
「あれ、魔術都市ヴィーヴルって言ってな。数十万人って貴族系列の魔術師を、平和に閉じ込めてる場所だ」




