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ひとまず無視して、俺は両手に溜めた水で顔を洗う。少しだけ、お陰で煩悩は収まった……んじゃないかな?
「紫音が文句言った辺り、ベッドが二つ置いてあったのかねえ……」
近くの引き出しからタオルを取りつつ、俺は居間の方へと歩く。
電気に照らされた生活スペースは、玄関と比較して活気があった。
冷蔵庫に電子レンジと、家電製品は一式が揃っている。机の上にはいくつかのカップ麺が。明日はこれを食え、ということか。
「ねえ先輩、寝室の方見てよ」
「うん? ベッドが二つあったんだろ?」
「? 違うよ。狭いのが一つあっただけ。お布団もワンセットのみ」
「なにぃ!?」
なんかウキウキしてる紫音を放置して、俺は寝室へと突撃する。
彼女の言う通り、そこにはシングルベットが一つあるだけ。
備え付けの棚を確認してみるが、寝具一式は一人分しか用意されていなかった。……落ち着いて寝たいなら一緒に使え、と? 一緒に使う時点で落ち着けないんですが。
収まった緊張が、また吹き返してくる。
「むう、どうして先輩は嫌がるの? 自分で言うのもなんだけど、アタシ美少女だよ? スタイル抜群のオマケつき」
「い、いや、それはそうだろうけどな?」
「あ、分かった! 先輩、恥ずかしいんでしょ!?」
「違うわ! ――ああいや、面倒くさいからそういうことにしといてくれ!」
「め、面倒ってどういうこと!? も、もしかして女に興味がないとか……!?」
「それも違う!」
いっそ、事実を説明するべきだろうか?
紫音が、俺の妹だと。
「ほらー、一緒に寝ようよ。ぐっすり眠れると思うよ?」
「んわけあるか! 緊張して目が冴える!」
「む、試してないのにそんなことを言うのはおかしいんじゃない? 仮説が正解とは限らないでしょ?」
「ぐ……」
妙な正論を返されて、言葉の勢いは止まってしまった。
それを白旗と解したのか、紫音は予想以上に強い力で引っ張ってくる。こうなったらどうにかして、話題を変えるなりしないと……!
「そ、そうだお前、風呂はいいのか? わけ分かんない場所で寝てたんだし、身体サッパリさせたいだろ?」
「おー、先輩、気遣いの出来る男だね。折角だから一緒に入ろっか?」
「俺を話から外せ! この恋愛脳!」
「あー! それ女性蔑視だよ? 女の子は基本、恋愛脳なんだからね!」
「本当かよ……」
とりあえず風呂には入りたいのか、彼女は浴室へ向かっていく。一人で
――そして、結局。
その日の夜、俺はほとんど眠れませんでしたとさ。