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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第二章 新生活・魔術都市
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「へえ、紫音がね」


 事情を説明しても、日暮は冷静なままだった。

 実は仕込んだんじゃないかと思えてくるが、そのメリットが見当たらない。なので言い争ったって仕方なく、俺は話を続けることにした。


「どんなものが運ばれてたかは、部長も知らないんスか?」


「ああ、連絡を受けただけだからね。信用できる情報源だから、嘘は言ってないと思うけど……」


「ひょっとしていつもの人ッスか?」


「そうだよ。君だって、何度かお世話になったことがあるだろう?」


 言われて、相手の人物像が繋がった。確かに彼女なら、嘘を言ったりはしないだろう。


「――とにかく、問題は今後ッスね。俺、連中に顔バレましたし……」


「予定通り、別の学校に引っ越しかな。ああ、正体が露見したことについては、僕の方で対処しておく。心配はいらないよ」


「……胡散臭いけど、頼りにしてます」


 ああ、と聞こえる助手席からの声。

 家を出た時は揃って後部座席に座っていたが、今は俺だけが後ろに座っている。

 理由は単純。一人人数が増えたからだ。


 整備されていない道を走る車は、ときおり上下に激しく揺れる。その度、横になっている紫音の身体も揺れていた。

 しかし彼女は、それでも目を覚まさない。

 何だか完全に落ち着いてしまっている。ときどき可愛らしい寝言も聞こえるぐらいで、起こすのが忍びなく思えた。


「しっかし、どういうことなんスかね。紫音が二人もいるなんて」


「何かの魔術を使った、と考えるのが妥当だろうけど……ひょっとしたら、誰かの罠かもしれないね」


「罠って、どんなッスか?」


「僕に聞かれても困るよ。まあ想像するなら……瓜二つの人物を使って、信用を崩そうとしてるとか?」


「……そりゃあまた、薄気味悪いッスね」


 でもあの黒服どもなら、やりそうで困る。

 そうなった時を想像して、俺は浅い溜め息を零した。

 人を疑うのは得意じゃない。いちいち詮索するのが面倒臭いというか。それは子供の頃からの習慣で、当時の俺は喧嘩っ早いことで有名だったりする。


「ま、とにかく妹のことは頼むよ。あ、いい写真が撮れそうだったら宜しくね!?」


「俺がやったら犯罪に近いと思うんスけど……まあ、本人の許可が取れたらやりますよ」


「ああ、助かるよ! これからしばらくは、妹に会えないだろうしね」


「どっちの?」


 こっちのだよ、と肩越しに振り向きながら日暮は言う。まるで、この場にいない紫音を偽物だと決め付けるように。


 しばらくして、車は森を出たところで止まった。

 入っていくのはマンションの駐車場。入り口には監視カメラがあったものの、やはり正常に動いていない。


「さて、今夜はここが君の寝床だ。これが鍵ね」


「あ、はい」


 眠っている紫音を背負いながら、飾りっけのない鍵を受け取る。

 中まで同行するつもりはないらしく、日暮達は直ぐに車へ戻っていった。片手で軽く挨拶して、人通りのない道路を走っていく。

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