第一部 始
「せーんーぱいっ! 誠人先輩!」
いつも通りの帰り道。
校門から出ようとしたところで、俺は聞き慣れた声に振り向いた。
「あれ、紫音? 部活じゃなかったっけか?」
「これも部活の一環なんですよー。ほら、これ」
言いながら彼女が見せるのは、一枚の紙だった。……もう片方の手にはその束を握っており、配れと指示を受けてきたんだろう。
なので内容についても、目を通す前から予想がつく。
「毎年恒例の招致活動か。部員が減ってるとはいえ、大変だな」
「そうでもないですよ。おにい――部長のお手伝いですからね。嫌々やってるわけじゃないです」
「……ご苦労さん。んじゃまあ、俺は帰るから!」
「あー、ちょっとちょっと!」
ぱっぱと逃げようと思ったのに、紫音のやつは先回り。
無垢な笑顔を見せながら、件のチラシを渡してきた。
「誠人先輩だったら、大歓迎だよ! お兄ちゃんも喜ぶと思うし!」
「って言われてもな、俺は入部する気なんて――」
「仮入部でもいいからさ、お願い! 今なら昔馴染みの、可愛い美少女も一緒だよ?」
「ほほう、どこにいるのかねえ?」
「こ、ここ! 真下にいるってば!」
わざとらしく視線を振る俺に、紫音は抗議の声を上げてくる。
もちろん、根本的な部分は否定できたもんじゃない。紫音は名実ともに、目立つ容姿の持ち主だ。
艶のある短い黒髪、幼さを残す愛らしい顔立ち。
綺麗、よりも可愛い、の方が評価としては目立つだろう。何か生き物に例えるなら、いたずら好きな小悪魔と言ったところか。実際、子供の頃は結構な悪ガキだったし。
「ねえ先輩、入ってみない? なんだったら昔にみたいに、誠人お兄ちゃん、って呼ぶボーナスもつけるよ?」
「い、いや、学校でその呼び方をされるのはキツイんだが……」
「え、じゃあ弟君、とか呼んだ方がいいの? もしかして先輩って、姉キャラの方が好き?」
「話がずれてる気がするぞ!?」
「ズレてないって。ねえどっち? 姉萌え? 妹萌え?」
答えられるわけないだろ。
そう口にしようとして、俺は寸前で思い留まった。辺りには下校中の生徒が何人もいる。よからぬ憶測を生みそうな発言は、極力控えておきたかった。
「むー、助かるんだけどなっ。先輩みたいな、優秀な魔術師がいると!」