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episode5:生きるため

 翌朝、私は意識の中に滑り込んできた水音を聞きながら目を覚ました。

 体を起こすと、私が寝る前にくるまった毛布の上に、もう一枚毛布がかけられていることに気付く。ストーブにも火が入っていて、それほど冬の朝の寒さを感じずに済んでいた。

 そういえば今は何月何日なのだろう。私は毛布を畳んで立ち上がり、ベッドの横にあるテレビを点けてみた。が、映し出されたのは砂嵐だった。どのチャンネルも砂嵐。壊れてしまっているのだろうか。


「あ……」


 脱衣所の扉が開いて、トウコさんが出てきた。頬を紅潮させ、濡れた髪をタオルで拭きながら。


「すいません、シャワー使わせてもらいました」

「いや、私に謝ることでは……」

「あ、それもそうですね……」


 私たちが沈黙して、砂嵐の音がやけにうるさく聞こえる。私はテレビを消した。


「良かったら、キョウイチさんもシャワーどうぞ」

「そうします」


 私は箪笥から適当にタオルを引っぱりだした。


「私、髪を乾かしたら朝食を買いに行ってきますね」


 トウコさんが脱衣所から持ってきたドライヤーをコンセントに繋ぎながら言う。


「ついでに新聞と、あとアルバイトの情報誌……履歴書もお願いできますか」


 とにかくお金が尽きるのはまずい。アルバイトなら履歴書さえあれば働かせてくれるだろう。

 もちろん経歴等はでっちあげになってしまうが、今はそんなことを気にしてはいられない。


「わかりました」


 トウコさんが頷いたのを見て、私は脱衣所へ入っていった。


 トウコさんが先に使ってくれたおかげで、風呂場もそれほど寒く感じなかった。

 私は体と頭を簡単に洗い、脱衣所に出る。体をタオルで拭いてから服を着て、脱衣所にあった髭剃りを手に取った。シェービングクリームが無かったのでかなり苦労したが、なんとか髭を整えることに成功する。

 顔の輪郭が多少はっきりして、若干若返ったようにも思えた。完璧とは言えないが、あの髭面よりは印象は良いだろう。


 トウコさんが帰ってきて、私は朝食を取りながら新聞に目を通す。今日の日付は十二月十四日。冬真っ只中だった。道理で寒いわけだ。

 適当に記事も読んでみたが、政治やスキャンダルの報道は私たちを救ってくれる情報ではなかった。

 次にアルバイト情報誌を開く。

 コンビニやガソリンスタンド、ファミレスのようなよくある求人に加えて、旅館やホテルの求人もちらほらとあった。朝食を食べ終わったら履歴書を書いて、働かせてくれそうな場所を探してみよう。

 視線を感じて、私はトウコさんの方を見た。そういえば私は頭の中で考えるばかりでトウコさんに何一つ伝えていなかった。


「あ、ごめんなさい。一人で考えててもしょうがないですよね」

「あ、いや……髭剃ったんですね」

「ああ、これですか。すいません今まで見苦しい髭面で」

「そんなことはないですけど」


 トウコさんの顔に少し笑みが浮かぶ。私もなんだか釣られてしまった。


「私はとりあえずこれからアルバイトを探してみようと思います。トウコさんはどうします?」


 咀嚼していたサンドイッチを飲み込んで、


「私も、考えがまとまるまで適当にアルバイトでもしながら暮らしてみようと思います。この部屋、使ってもいいでしょうか……?」

「それは自分も聞きたかったことで……。素性のわからない男と一緒に生活することになっちゃいますけど、大丈夫ですか?」


 トウコさんは私の心配とは裏腹に笑顔で頷いた。


「はい。ある意味、キョウイチさんがいてくれて助かりました。多分、私一人だったらもっと混乱してたと思います」

「私も混乱してるんですけどね」


 私は苦笑した。


「それに、キョウイチさんは変なことをするような人じゃないって、なんとなくわかりますから」


 まっすぐな笑顔で釘を刺されてさらに苦笑いする。

 見ず知らずの女性と同じ部屋で生活する。正直ちょっと意識してしまわないこともなかったが、今はそれより現状を打開しなければいけないという思いが強い。

 トウコさんと私が幸せになるためには、これからどうするのがベストなのだろうか。

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