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episode11:割と暇な朝

「え、えーと……」


 翌日。初めて出勤した私とトウコさんは、早速仕事を説明してもらうことになった。なったのだが。


「……」

「すいません、何かすることは……」

「……」


 ヨシキさん、寡黙過ぎる。

 宮野さんにキッチンに連れて来られてからというもの、私は黙って仕込みの作業をしているらしいヨシキさんの姿を眺めているだけだ。

 このままでは給料泥棒になってしまう。

 私は思い切って、キャベツを凄まじい速度で千切りにするヨシキさんに声をかけてみた。


「あの、それやりましょうか?」

「うむ」


 よ、良かった。ヨシキさんが包丁を置いて一歩下がってくれたので、キャベツの千切りを代わった。


「……うむ」


 ヨシキさんが頷いてくれている。ヨシキさんほどではないものの、どうやら包丁はある程度使えるらしい。

 あと二玉は千切りにしないといけないようなので、しばらくはやることに困らなさそうだ。ただ……。


「あの」

「うむ」

「私がキャベツを切っている間に、ヨシキさんは何か別のことをした方が良いのでは……」


 心配なのか天然なのかわからないが、ヨシキさんはキャベツを切る私を横でずっと見ていた。結局一人しか動いていない上、作業の速度は落ちている。明らかに二人いる意味がない。


「……うむ」


 ヨシキさんは納得した様子で別の作業を始めてくれた。どうやら天然だったらしい。

 しかし……これは何かを教えてもらうのは諦めた方が良さそうだ。盗まなければ。


    ・・


「……暇ですね」

「暇、ですね」

「暇だねー」


 私、トウコさん、宮野さんの順でカウンター席に座り、それぞれだらけていた。

 どうやら仕込みをいつもより三十分近く早く終わらせることができたらしく、私はやることがなくなってホールに出てきていた。ヨシキさんはキッチンで新聞を読んでいる。

 トウコさんはトウコさんで掃除やコーヒーの淹れ方、基本的な物の配置を教わって、やることがなくなったらしい。


「あの、もっと接客とかちゃんと教えてもらわなくて大丈夫なんでしょうか?」


 トウコさんもさすがに不安らしく、宮野さんに尋ねる。


「うーん、そういうとこしっかりしてる店もあるみたいだけどね。うちはそういうとこしっかりしてない店だからー」


 言いながら、宮野さんはついにカウンターに突っ伏した。本当にこれで大丈夫なんだろうか。

 と、店の入り口で鈴が鳴った。午前十時を回って、ようやく最初のお客さんだ。ヨシキさんと同じくらいのおじいさんだった。

 トウコさんが弾かれたように立ち上がる。


「い、いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいまふぇー、トウコちゃん頑張ってえー」

「え?」


 宮野さんはカウンターに突っ伏したまま手をひらひらと振った。トウコさんが戸惑っている間に、お客さんが席についてこちらを見ている。


「ほらほら」

「は、はい……」


 トウコさんは不安を顔いっぱいに浮かべて、お客さんの座る窓際の席へ歩いて行った。不慣れながらも必死に接客をしている姿が微笑ましい。


「うーん、あの不慣れな感じ。どう?」

「えっ」


 宮野さんがいつの間にか身を起して、頬杖をついてトウコさんを見ている。


「どう、というのは」

「可愛いよね」

「あ、はあ。まあ」

「トウコちゃんのエプロン姿。どう?」

「え……まあ似合ってると思いますけど」

「さながら幼妻だよね……」

「その発想はどうかと思いますが……」


 宮野さんがぐるんと椅子を回転させてこちらを向く。


「君たち一緒に暮らしてるんでしょ? 何も思わないの?」


 悪い顔をしている。


「いや、あくまで仕方なくで……」

「ほんとに? トウコちゃんだけ私の家に居候させてもいいんだけど?」

「え……」


 あ、しまった。宮野さんが最高に悪い顔をする。


「じょーだんよ、じょーだん。そんなに悲しい顔しないでー」


 私は完全に宮野さんの掌で遊ばれていた。

 そこにトウコさんが小走りで戻ってきた。今の会話聞かれてませんように。


「コーヒーとパンケーキだそうです!」


 トウコさん、注文取ってきただけでそんな得意気な顔されても。

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