崩れかけの屋上で
たまたま、あの使われていないビルの屋上からなら、手が届くかな、と思った。ずいぶん前から放置されていたそこは、鍵こそ開いているけど、入る人なんて見たとこがない。だってそこは、事故があって、ボロボロだから。
そこに足を踏み入れた。午後11時。もともと人通りが少ないけど、この時間は特に。誰にも見られることなく、屋上まで上る。見られたらきっと注意される。私、高校生だし。
錆びたドアを開ければ、見えるのは星空だけ、じゃなかった。
「・・・何してるの?」
「!?」
「あ、答えなくていいや。わかるし。」
人が一人。フェンスの向こう側に居た。フェンスといっても、壊れかけていて、跨げば越えられるくらいの高さだった。靴は脱いでいて、フェンスのこちら側に揃えてある。
「別に止めないけど、私が帰った後にしてね、疑われたら嫌だし。」
「・・・」
「なんで、自殺しようとする人って、靴を脱ぐの?漫画とか本とかの影響なのかな?まあ、どうでもいいんだけど。私は、何か存在を残し隊たいのかなって思うんだけど、どう?」
「・・・」
1メートル程離れたところにいる男の子は、たぶん同い年くらい。知ってる高校の制服だから。サラサラとした黒髪で、すらりとした長身の男の子は、さっきから一言も喋らない。表情が変わったのだって、最初に声をかけた時に驚いた時だけ。
「そんなにカッコいいのに死んじゃうなんて、もったいないね。」
「・・・見た目は、関係ないと思うけど。」
喋れないわけではなかったみたいだ。すっ、と耳に入ってくる少し高めの声。心地いい。一瞬、死んでほしくないなと思ったけど、本当に一瞬。
「こんなビルの屋上、誰も来ないと思った・・・」
「うん。私もそう思って来た。ここなら一人で星が掴めるかなって思ったの。」
「星を、掴む?」
「そう。遮るものが無いここからなら、たくさんある星の中から、あの子かもしれない星を掴める気がしたの。」
「・・・なんで」
「死んだか?自殺だよ。あの子はいろんなものに耐えきれなくなって、私の前から消えた。迷惑かけたくないから、私にも相談しなかったんだって。あの子も馬鹿だけど、気付けなかった私も馬鹿だよね。せめてものお詫びに、一年たった今日、あの子を探してるの。皆が忘れても、私は覚えてるよって。」
「・・・やっぱり、飛ぶのはもう少し先にするよ。」
「なんで?」
急な心変わりだな。私、なんか変なこと言った?
「あの子、の話をしている君が綺麗だったから。あと、カッコいいとか言われたのも初めて。嬉しかったから。それだけ。」
「え、何それ?変なの。」
「変でもいいよ。またね。」
そう言って、この場から去っていった。笑った顔もカッコよかったな、なんて。
もう一度空を見て、思った。
「あんたが、引き合わせたの?」
もしそうなら、お礼を言うよ。
「楽しみができたから。私も、前に進まなきゃね。」
またね、か。名前も連絡先も知らないのに、また会えるなんて思ってるのかな。まあでも、もし会えたら。
「運命っていうの、信じてみようかなぁ。」
星がひとつ、一際強く輝いた。
あんまり恋愛要素がない・・・
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。