ロッコリの森にて 2
(ウソ、だろ……?)
あまりにも衝撃的な光景に、レオンは腰を抜かした。
突然現れた謎の少女が、数十人はいた山賊を、たった一人で倒してしまったのだ。倒れた山賊達はピクリとも動かず、ただただ傷口から赤い血を流しているだけである。
唯一荒い呼吸をしているガオウは、頭を少女に踏みつけられながら、地面に突っ伏していた。
「お…まえ………いっ…たい………何……者だ………?」
ガオウの問いかけに、少女はやはり答えない。少女は無言のまま、剣をゆっくりと振り上げた。
「ま…待て!お、お前に、ありったけの……金や、財宝を……やる………。だから………い、命だけは………。」
ガオウは必死に命を乞うが、少女は剣を止めようとしない。剣を頂点まで振り上げると、そのまま容赦なく降り下ろした!
「――っ!」
レオンは思わず、ガオウと少女から目をそらした。肉を裂く音と、血が溢れ出る音だけが、森の中に響き渡った……。
恐る恐る目を開けると、少女の姿はなく、物言わぬ肉塊と化したガオウだけが、静かに横たわっていた。
(いない……?―何だったんだ?あの娘は………。)
しばらくぼうっと考え込んだレオンだが、振り払い、今自分が置かれている状況を確認する。
レオンの両腕は、後ろ手に縛られていて、思うように動けない。そして、彼の周りには、大量の惨殺死体が。
(さすがに、ここから抜け出さないとなぁ………。変な誤解されたら困るし)
レオンはなんとか自力で立とうとするが、なかなかうまくいかない。思わず後ろによろけた途端、その先の何かにぶつかった。
レオンがぶつかったのは、レオンより一回り体が大きい、中年の男性。黒い髪に白髪が混じっていて、彼の持つ茶色の瞳は、鷹のように鋭い。また彼は、濃いエメラルドグリーンの鎧を着用し、その背中には、レオンのものとは若干形状が違う大剣が背負われており、幾度となく死線を乗り越えてきた歴戦の剣士を思わせる雰囲気を漂わせていた。
「あ、ゴメン………。――!」
男は、ただ静かに、目の前の惨状を見つめていた。その後、その視線をレオンの方へと移した。
「ち……ちげぇよ!?これは、その……俺がやったんじゃ――」
「――これが現実」
「………?」
予想外な男の言葉に、レオンは首をかしげる。男は目を伏せ、続ける。
「弱き者は、強き者に蹂躙され、その強き者も、更なる強き者に蹂躙される……。これが現実、これが自然の摂理」
(な……何言ってんだ?このオッサン……。)
「――時に少年。貴公は力を求むか」
男はレオンの方を向き、問いかける。
「ち……力?」
いきなりレオンの前に現れ、いきなり『力』について説かれる。レオンには、何がなんだか、さっぱりわからなかった。
「まぁ……あれば便利だなぁとは思うけど……。」
「その返答、肯定と受け取ろう」
男の言葉の直後に、突然、レオンを縛っていた縄が切れた。レオンはすぐに両腕を確認するが、縄の跡の他には、何も変わったところはなかった。
「オッサン……今、何を……?」
「貴公には、これを授けよう」
男が差し出したのは、半透明のオレンジ色の小石。レオンはそれを胡散臭げに見つめた後、それを受けとる。
「何、コレ?」
「直にわかる」
男はそれだけ言うと、踵を返し、レオンとは反対の方向へと歩いていった。――その瞬間!
「うっ、うわっ!」
突然小石がオレンジ色の光を放ったかと思うと同時に、レオンの全身に激痛が走った!
「う………かっ…………!」
レオンはその場に崩れ落ち、悶える。体の内側から、熱い炎に焼かれるような感覚。全身から、大量の汗が滴る。想像を絶する痛みに、呼吸すらできない状態だ。
――数分位して、だんだんと痛みが引いていく。それにともない、レオンの全身から緊張が消えていく。しばらくして、レオンは呼吸を二、三回すると、眠るようにして気絶した……。