アルヴァンス・ノーレッジ:夢の中にて不思議との出会い
目の前は本の山、見渡す限り本だらけの大きな部屋である。
しかし、その本の山の中に幾つかおかしなものがある……。 何も入っていない本棚と、銀髪の女の子が一人、そして二本足で立つ巨大な虎。
「君がこちら側に来るのを待っていたよ。」
虎が、低く落ち着いた声で私に話しかけてくる。 この状況も、夢の中でなければ納得が行かなかっただろう。 私は意外とすんなりと受け入れることが出来た。
「待っていた……? 私を?何故……? それに、呼んでいたのは貴方なの?」
聞きたいことは山ほどあったが、先に口をついて出たのはこの言葉だった。
「君の能力には利用価値がある。 そして、その価値を見出だせるのはかなり後。 そうだな……。およそ1000年後。かな?」
利用価値、今までの私には縁のない言葉であった。
「1000年後……? スケールが大きすぎてよくわからないわよ、それに、私には利用価値なんて何もないわ。」
「アル様には…… 強力な魔術があります……。 それに、驚異的な記憶力。」
私の質問に返答したのは、銀髪の少女であった。
「そうだっ! アルヴァンス嬢には優れた魔法の技術がある。 そして、天才的な記憶力も。 だから私は呼んだのだ、君を、利用したいと思ったから。 今でなければ間に合わないと判断したからっ!」
「急に迫ってこないで頂戴……。」
クルクルと芝居がかった動きで距離を狭めてくる虎、退く私。 しかし、私自身、嫌な感じはしていなかった。 この世に私を必要としてくれる人が居る、それだけで十分であった……。