鈴の様に透き通る声
6時間目の授業も無事終わり、待ちに待った放課後になった。
「友江、一緒に帰ろ?」
「ごめん、私バスケ部の見学に行きたいから一緒に帰れない」
両手を合わせて小春に謝る。バスケ部には絶対入りたいから、ごめんね
「そっか、じゃあ仕方ないね」
小春は柔らかな口調でそう言って、穏やかに微笑んだ。
小春は優しい。名前の通り、側にいると気持ちが暖かくなる、名前の通り春みたいに子だ。
教室をでて、体育館へ急ぐ。急ぐといっても走ることは出来ないから、早歩きで急ぐ
緊張感と期待で胸いっぱいになっている。
この緊張感は嫌なものではない。寧ろ私の中にある活力を増幅させてくれるような、とても素晴らしい緊張感だ。
体育館の重い扉を開いて、それらしい先輩に声を掛ける。
「あの、私、1年の相坂 友江です! バスケ部の見学に来たのですが、今日大丈夫ですか?」
「相坂さんね、いいよ。じゃあ、邪魔にならないところで見てて」
「はい!」
口調のハキハキと話す先輩は、私より身長高くて威圧的で、ちょっと怖かった。『初対面の先輩』という存在は、無条件でつい怖いと思ってしまう。
私は邪魔にならない、けれど練習がしっかり見える位置を探し、壁にもたれる様にしてその場に座り込んだ。
女子バスケ部の部員は、まださっきの先輩しかいなかった。
部活は普通、先輩より先に後輩が集まって練習の準備をするもののはずだから、あの人は2年生……かな。
「ねぇ」
「え、はいっ」
私の数分後に隣に座ってきたボブヘアーの女の子が、急に話し掛けてきた。
鈴のように透き通る声だったから、すごくびっくりした。
「あなたもバスケ部の見学に来たの?」
「うん、体動かすの大好きだからね。私、相坂 友江」
「私は鈴木 寧々(すずき ねね)よろしくね、相坂さん」
鈴木さんは上品に微笑み、私に手を差し出した。
「よろしく」
上品に、とはいかないけれど、私は出来るだけ自分らしく明るく笑って、鈴木さんと握手をした。