噂話
入学式の時と同じ時間に、私は家を出た。
入学式の時と同じ速さ、歩幅で歩く。
桜並木にはやっぱり斎藤 夏先輩の姿があった。
「おはようございます。斎藤先輩」
私は出来る限りの明るい表情で、話し掛ける。
でも斎藤先輩は私を睨むだけで、なにも返してくれない。
でもそれも全然想定内。
「斎藤さんは、先輩ですよね? 雰囲気的に同級生だとは思えないし」
「……」
斎藤先輩はついに私から目を離して、桜並木を歩いていく。
その後ろ姿は呆れるようにため息をついた。
それでも私は斎藤先輩の隣へ行く。
「……ついてくるな」
「嫌です」
「関わるな」
「嫌です」
桜が空を、明るく染める。
「そんな事したら、先輩1人になっちゃうじゃないですか」
私もこの桜みたいに、先輩を明るく染めたいから
「そんなつまらなそうな顔している内は、私絶対はなれませんよ」
斎藤先輩は未だ私を見ようとしない。今はそれでも良いと思った。
2人で並んで歩いていると、先輩がどうして自分から離れる様に言ったのかがすぐに分かった。
斎藤 夏は目立っていた
悪目立ちしていた。
他の生徒から後ろ指を指され
『こわい』
と言って笑っていた。
明るい金髪。
ブルーともグレーともつかない瞳。
そして無愛想な表情。
先輩は噂になりやすい人種なんだ。
だから一緒にいると、私も噂の的になるかもしれないんだ。