泣いていたから
このまま家に帰るのは悔しかった。なんか、私をこんな状態にした、運命の神様に負けたような気分になるから。
カバンからスマートフォンを取り出して、電話をする。メールやラインでも良いかもだけど、やっぱりすぐ連絡取りたい時は電話だよね。
相手は3コール目ですぐに出てくれた。
『小春? どうしたの?』
友江は少し眠そう。アクビをしながらゆっくり話していた。
「ちょっと色々あって……今からそっち行っても大丈夫?」
友江はふたつ返事でOKしてくれた。良かった。友江はあまりダメって言わないから嬉しい。
財布の中にはまだ3,000円入っていた。まだ余裕がある。
これでお菓子や飲み物を買って、友江の家に行くことにした。
お腹空いていたからチョコパンも買った。
「なんで、制服なの?」
Tシャツにショーパンという、ラフな格好で出迎えてくれた友江は、予想通りに目を丸くして私に聞いてきた。
「……間違えて、その。学校に行くところ……でした」
友江から目線を外して、ばつが悪そうに小さく私が言うと、友江は近所迷惑にもなりそうな位大きな声で笑った。
「もー。笑わないでよ」
「ごめんごめん。でも流石小春、ドジだよね〜」
ケタケタと愉快そうに笑いながら、友江は家に入れてくれた。
「先生だってちゃんと言ってたじゃん」
友江は私の買ったポッキーを口に加えて、ニヤニヤと私を見る。
「うっ……。全然聞いてなかった。だって斎藤さんの事考えてたし」
「斎藤 夏、か。たぶん先輩だよね。斎藤先輩? 私には目付き悪くて怖いとか思えなかった」
目付き。
確かに、優しい表情ではない。友江の言う通り、少し怖い。
でもそれ以上に、私にはあの瞳の奥で泣いている様に見えた。
「商店街に、斎藤……先輩とあったの」
「嘘!? そんな偶然あり?! ね、私服カッコ良かった?」
前のめりになって、テンション高めに聞いて来た友江のその質問を、私は無視して話しを続けた。
「関わらない方が良いって言われた……『俺には関わるな』って」
前のめりになっていた友江が、今度は後ろに下がり、ベッドにもたれ掛かった。少しだけの珍問して、友江はポツリと呟いた。
「なんか、中二病みたいな発言だね」
「高校生なのに?! そして恐らく先輩なのに?!」
私は思わず叫んだ。弾みでチョコパンを落としそうになったけど、それはなんとか食い止めた。
お陰で重たい空気が、一瞬で何処かへ行った。
「でも、そんな事言われても、諦める感は無いね小春は」
「うん。諦めないよ。だって、本当に関わってほしくないなら、商店街で話し掛けたりしないよ」
これは確信だった。急に名前を聞いてきた変な女なのに、斎藤先輩は話し掛けてくれた。
あの言葉は本心じゃないよ。
気になるの
どうしてそんなに、悲しそうにしているのかを知りたい。
あの硝子の瞳は、明らかに寂しいと泣いていたから