関わらない方が良い
「あーあ、やっちゃったな……」
ベットの上に仰向けで寝転がって、私は1人呟いた。
名前を聞いた後友江にもお母さんにもからかわれてしまった。
一目惚れした人の腕を捕まえて、名前を聞き出すなんて、絶対私変な人だと思われた。
「思い出しただけでも恥ずかしいぃ」
手を使って赤くなった顔を懸命に隠す。それでも、やったことが消える訳じゃ無いけれど。
「斎藤 夏……か。先輩かな」
綺麗な瞳の人
手も凄く大きかった
明日も会えるかな、あの桜の下で
「もう寝よ」
明日が楽しみ
入学式の疲れからか、目蓋を閉じると眠気はすぐに襲ってきて、私を眠りの世界へと連れていってくれた。
でも、今思えば眠気は少しやり過ぎたように思える。
「遅刻するー!!」
時刻はすでに8時30分。急げばなんとかなるけれど、ゆっくりご飯を食べたり寝癖を直す時間は無い。
ものの5分で制服に着替えて、朝ご飯のおかずだけ適当につまみ、私は急いで家を出た。
「いってきます!!」
慌てて新品のローファーを履いて、家を出た。
お母さんが何か言ったような気がしたけど、急いでいる私には何も聞こえなかった。
初日から遅刻なんてありえない。考えたくない。とにかく急がないと。
とは言っても私は体力が無い方だから、歩くのと走るのを交互に繰り返していた。それでも体は熱くて、汗が止まらない。鼓動が早くなって、それが痛い。
商店街付近の所まで来ると、私はもうくたくたで歩くことしか出来なかった。
「はぁ……はぁ……もうやだ、意味わかんない」
自分のせいで犯した失敗に、今更ながらに後悔する。
「……なにしてんの」
後ろから聞き覚えのある声がする。深くてやさしい男の人の声。
「斎藤……さん?」
振り返るとそこには私服姿でいる斎藤さんが立っていた。
「あれ、なんで制服なんですか?」
「学校が休みだから」
「え」
一瞬何を言われたのかが分からなくて、私は息をゆっくり整えながらその場に立ち尽くしてしまった。
「……じゃ」
そう言って、斎藤さんは私の横を通り過ぎようをした。それを止めたのが、他でもない私だった。
「待ってください」
と言って、腕をつかみ斎藤さん歩みを止めさせる。私はまだ状況を理解できない。できれば説明してほしかった。
「学校、休みなんですか?」
「……うん」
「でも今日って水曜日ですよね?」
「でも入学式の後だから」
私は一体何の為に夢中になっていたのだろう。早とちりして、一所懸命に走って。でも学校は休み。
「私、バカみたい……」
斎藤さんから手を離して、私は両手で顔を覆い隠す、赤くなっている顔、人に見られたくない。
そんな事をしていると、不意に私の頭になにかが乗った。暖かくて、落ち着く。それは斎藤さんの手だった。
斎藤さんが私の頭を優しく撫でてくれていた。
「あ、ありがとうございます」
「……あまり、俺に話しかけない方が良い」
「え?」
なんで、なんでそんな事言うんですか。
そう言った斎藤さんの顔は悲しそうで
涙は出ていないけど、泣いている様に見えた。




