始まり
「小春遅い」
教室の戸を開けると、戸から1番近い1番前の席に座っていた幼馴染みの友江が私に声を掛ける。
私教室に入ったの7時45分なんだけど、それでも遅いと怒る友江は一体何時にここへ来たのだろう。
「友江が早いんだよ」
「えー? でも待ってたのにー」
そう言って友江はそっぽを向いてしまう。
不機嫌という訳ではない。ただ単にふざけているだけ。
「ごめん、ごめん」
一言謝ればそれで終わり。
「いいよ〜」
ほらね
「あ、ねぇ、そういえばさ、朝すごい格好いい人見かけた!」
私は少し興奮気味に身を乗り出して朝の事を話す。
「瞳がね、硝子みたいな色してて綺麗だった〜
制服が一緒だったから、たぶん同級生か先輩だと思うんだ」
「なにそれ、硝子ってカラコン? ヤバイね。小春一目惚れしちゃったんだ」
友江は肘を付いてにやけながら、楽しそうに私を見つめる。
「そうかも、まだわからないけど」
もしまた会えたら、私はその人の事で頭がいっぱいになって、その人に夢中になってしまう。
そう確信していた。
偽物の桜の花を胸に付けて、体育館入口の前に並ぶ。これから私は中学生から高校生になる。
これからの高校生活が楽しみでもあるけど、同時に不安でもある。心臓の音がいつもより煩くて、息がつまる。
こういう行事の独特な空気は苦手。
『新入生、入場。拍手でお迎え下さい』
その声と共に、体育館の戸が開かれる。私の高校生活の始まりだ。