怖い人と一生懸命な彼女
「さあ、説明したまえ」
鼻血は収まったけど、保健室の先生に言われて5時間目の授業は休むことになった。
拓真は教室に戻ったけど、何故か小春という可愛い女子と斎藤 夏も一緒になって休んでいる。
せっかくだから小春に『斎藤 夏鼻眼鏡事件』の真相を聞く事にした。
「斎藤先輩が、怖い人じゃないって教えたかったんです」
小春は真っ直ぐ俺を見つめ、反らさない。なんというか……可愛いな
でも発想は……バカだなぁ
それにしても
「斎藤がそれで素直に鼻眼鏡を掛けるなんて、イメージと合わないな」
小春から視線を反らし、ボソリと呟く。
誰かに話し掛けたというより、一人言に近い。
しかし小春は俺の一言にしっかりと食い付いて来た。
「そうなんです! 斎藤先輩は無愛想だけど、本当は優しくていい人なんですっ!」
「ふーん」
ただの先輩後輩の立場にしては随分熱心だ。小春は……斎藤 夏が好きなのか。
そう思うと胸が急に苦しくなる。こんな初対面の後輩に、一目惚れなんて初めてだ。
「あの、拓真先輩は斎藤先輩の事、どう思いますか?」
小春のその一言で俺は我に返る。彼女が真剣なのだから、俺も少しは真面目にならないと。
俺は今まで視野に入れないようにしていた斎藤に目を向ける。
さっきから何も話さないと思ったら、こいつ照れてやがる。
不良みたいな見た目のくせに、斎藤はうつむいて顔全体を赤く染めていた。鼻眼鏡が相当恥ずかしかったらしい。
それを見ていると今まで怖がっていた自分がアホらしくなり、思わずため息が出た。
「見た目めっちゃ怖いけど、悪い人じゃないみたいだって今日知ったよ」
それを言うと、斎藤は俺を見上げ目を丸くしている。表情を表に出さないタイプだから分からないけど、これは、喜んでいると捉えていいのだろうか。
「あの……手伝ってもらえませんか? 斎藤先輩の悪い噂が無くなる様に……」
小春が上目遣いで俺を見て懇願する。潤んだ瞳が真剣さを表していた。
そんな目で見られたら、断れない。
「……わかったよ」
でも、この一生懸命さも全部斎藤の為なんだな。




