保健室
周囲の嫌な視線が変わらず私に向けられる。
今だけの我慢だ。
私はその視線を無視して、先輩の席へと早足で向かう
「来ましたよ、先輩」
斉藤先輩の机の上にお弁当を置く。ここで食べながら話しをするものだと思ったからだ。
しかし斉藤先輩は何も言わず、席を立った。
「あ、先輩?!」
早足で廊下に出て行こうとする先輩。
机に置いたお弁当を再び持ち上げ、慌てて先輩の後を付いていく。
早く追いかけないと、置いてかれてしまう。
教室を出てから先輩のせいで開けっぱなしにされていた戸を、ゆっくりと閉めた。
「おい」
「あ、先輩」
どこかに行ってしまったのかと思っていた斉藤先輩は、戸のすぐ横で壁にもたれ掛かり腕を組んでいた。
「学食でパン買ってくるから保健室、分かるか」
「……保健室?」
保健室、どこだったけ?
記憶を辿り保健室を探してみても、答がない。
悩んでいると先輩がぽつりと
「1階だ」
と、教えてくれた。
『ありがとうございます』と一言お礼したかったのに、斉藤先輩は私が口を開く前にスタスタと食堂へと歩いて行ってしまった。
それにしても、なぜ保健室?
「……まぁ、いっか」
了解をしてしまったのだから、今更あれこれ言っても仕方がない。
私は1人、まだ1度も足を運んだ事のない保健室へと向かう。
「おや、どうしたの?」
当然だけど、保健室には保健室の先生がいた。
ローラーの付いた椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。
「えっと……」
ど、どうしよう
ここは素直に事情を説明するべきだろうか。
追い出されると思うけど。
「あの、実は2年の斎藤 夏という人に……」
「あぁ夏か」
言い切る前に先生は納得した様に頷き、言葉を重ねてきた。
「私の名前は斎藤 雪歩"アレ"は私の弟なんだ。よろしくね」
「え、お姉さんなんですか?!」
思わずひとまわり大きな声が出た。
私は斎藤先輩は1人っ子だと思っていたから、姉がいるだなんて予想外だった。
まぁ、それは私の勝手な想像な訳ですけど。
「うん、お姉ちゃんだよ。君は1年生かな?」
「はい、えっと。佐藤 小春です」
「ほほぅ?」
斎藤先生は立ち上がって私の方へ近づき、私の事をまじまじと見初める。
にやにやと意地悪く笑っていた。
何やら、楽しんでいる様にも見える。
「まぁ、座りたまへ」
先生は良いながら窓際の、端を指差す。
見るとそこには"お客様"でも呼べそうなソファーと長机を置かれていた。
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして、ソファーに座る。ふかふかで温かい、とても良いソファーだ。我が家にもひとつ欲しいと思った。
その数分後、保健室の戸がノックも無しに開かれた。斎藤先輩だ。
「あ、こら。ノックしなさいっていつも言ってるでしょ?」
「……」
「……無視なのね」
斎藤先輩はその一言さえも無視して、長机の上にカツサンドと缶コーヒーを置き私の向かいに座った。
先生も無視されているのには慣れているのかそれ以上は何も言わず、変わりにため息をひとつ付いて、椅子に座り直した。
「食べながらで、いいか」
「はい」
「話すと長くなる」
「はい」
「……」
覚悟を決めたようにひとつ、先輩は深呼吸をした。しかしその後すぐ少し目線を離し押し黙ってしまった。
話すことを渋っているらしい。
このまま放っておいたら、何も聞けないまま昼休みが終わってしまう気がする。
「先輩、大丈夫ですよ」
先輩が顔を見上げる
根拠は何もないけど、その場を和ませる為に笑顔を作ってそう言ってみた。
けれどそれが効果があったみたいで、斎藤先輩は一言分かったと呟いて話しを始めてくれた。
「俺の髪と目についてから、話そうと思う」




