例のメガネ
友江にススメられた例の物を装着して、玄関の戸を軽快に開けた。
斉藤先輩の元へ、いざ行かん。
目の前を通りすぎる人達は私の顔を見て怪訝な表情を浮かべる。
しかしそんなものに私は屈しない。
すべては斉藤先輩の為
斉藤先輩は変わらず桜並木を眺めていた。
「斉藤先輩、おはようございます」
「……」
斉藤先輩は私を見るなりそっぽを向き、逃げるように早足で歩き始めてしまった。
「え、待ってください! なんで無視するんですか?!」
大きな声を上げると斉藤先輩の歩幅が広くなる。
急いでその後を追いかけて、そして腕を掴んだ。
「無視しないでください」
「……やめろ、俺には対処出来ない」
「面白く、ないですか?」
もしそうだとしたら、ここまでの努力が水の泡だ。
「鼻メガネなんて付けて、一体何がしたいんだ」
どうやら水の泡になってしまったらしい。
斉藤先輩は昨日と同じ、寂しい表情のまま
私はそっと鼻メガネを外した。
「斉藤先輩の笑った顔が見てみたかったんです。笑顔でいた方が毎日が楽しいって思えるから」
先輩はその綺麗な瞳で私を見つめ、そしていつもより小さく、低い声で
「お前になにがわかる」
と言った
内側に入り込まれないように突き放すかのような、そんな冷たい声。
歩いて行ってしまう先輩の後を付いていく気にはなれなかった。
どうして先輩は、そんなに人と触れ合うのをさけるんだろう




