夏祭り2014 7月5日その2 鹿島茂の懸念
AM8:50
会場の準備もあらかた終わり、
もう少ししたら最終ミーティングである。
鹿島達にとっては聞かなくても分かるような当然の内容が中心であるが、
今回は学生を働かせる以上、
食品衛生や売り上げ管理については
十分意識させておく必要がある。
今回自分の担当する『お面』屋は、
彼が持ち込んだ3Dプリンタこそ扱いが面倒であるものの、
その部分は本人が全面的に関与する予定であり、
学生達が参加するのは主に通常のお面の販売となる。
挨拶、声がけ、商品説明など、
販売員としての基本的なスキルさえあれば問題ない業務であるが、
そこは素人どころか小中学生も含まれている。
日頃バイト指導や職業体験の受け入れで
日常的に子ども達の相手をしている直樹とは違い、
立場上直接的に若い層の相手をする機会の少ない鹿島ではあるが、
そこは卒のない彼のこと。
すでに学生組のリーダー格になる高校生組には声をかけてあるし、
小中学生組に対しては妹にあらかた任せながらも
知り合いが少なくて若干緊張気味の出君へのフォローを
長船君に頼む等、十分な配慮はしているのであった。
正直店舗の運営に関してはあまり心配していないし、
色々と売りは作っておいたことから、
売り上げの点も問題ない範囲で収まるであろう。
気になるのはただ一点、
そう目の前で重そうなバッテリーをヒイコラ言いながら運んでいる、
合田康仁という名の『ゴミ虫』の存在だけであった。
「いつまでちんたらやっている。
お前の担当は玩具屋の所だろう?」
「いやいや、人を呼び止めて
3Dプリンタ用のバッテリーもってこいって言ったの茂さんっしょ!
早川さんだっているのになんで俺が•••
つうか町のお祭りで3Dプリンタ持ち出すとか
おとなげねえにも程があるわ。」
「ふん、うかつに触るなよ。
今回のためにプロモーターからハイエンド機種を引っ張ってきたんだから。」
「さっき試作品だって見せてもらった鬼小梅のマスク、
めちゃくちゃリアリティありましたもんね。
今回お客さんに提供するやつはもう少し簡易なやつでしたっけ?」
「あれはフルスペックで時間とお金を惜しみなくつぎ込んだやつだからな。
1個作るのに数万円もかかる奴を300円では売れないさ。
まあ、簡易版と行っても300円じゃ材料費にもならんが、
お面と一緒にモールでの3Dプリンタ運用に関するチラシも配るから、
宣伝になってくれれば十分さ。」
「ちなみになんで鬼小梅なんすか?
普通のキャラクターとかで良かった気がしますけど。」
「お前は全然分かっていないな。
来るのは町の住民、特に学生達が多い以上、
共有するネタがあるローカルなキャラの方がいいんだよ。
清水の結婚式の騒ぎの時でも
彼女のお面が結構学生達にウケてただろ?
あれが置いてあったら絶対に話題になるはずさ。」
「•••確かに最初あれを被って茂さんが近寄ってきたとき、
オレ、背筋が凍りましたもん。
あー、まだあの時の折檻の記憶が身体からぬけねえー。」
「ふん、自業自得だな。」
身悶えする合田の様子を鼻で笑ってのける鹿島。
傍から見ると決して仲が悪そうな様子ではなく、
実際海江田受験に向けての家庭教師役を勤めた縁もあり、
最初のころ問題を間違える度に『おい、このクズ。』、『死ね、アホ。』、
と一方的に暴言をぶつけていた頃と比べると、
随分とまともなコミニケーションがとれているのである。
とはいえそれはあくまで『元教え子』に対する対応にすぎないのである。
そのことは浴衣姿の妹が近づいて来るのに気づいて
頬が全開で緩みながらも、
そのまま自分ではなく合田に寄り添ったその瞬間、
鹿島の顔面が実に醜悪に変貌したことでも明らかであった。
「ヤスお兄ちゃん、
お面のディスプレイ出来たけど、
どうかな?」
「ん、結構いいんじゃねえか?
•••ヒーロー戦隊のレッドのお面と天狗仮面っぽい天狗面が
同列に並べられているのが微妙に気にはなるが。
萌の中ではヒーローなのかもしれんが、
あれはただの変態だろう。
つうかその辺はオレじゃなくて
茂さんに聞けよ!」
「だってお兄ちゃん、
『萌素晴らしい、最高だ!』としか、
言ってくれないんだもん。
嬉しくはあるけど、
参考にならないよ。」
「•••」
「ちょ、茂さん、顔恐過ぎますって!
あー、澄さんにどやされるから、
俺は一旦『くじ』の方に戻りますんで。
萌、それじゃ、『後で』な。」
「うん、『後でね』、ヤスお兄ちゃん♪」
これ以上その場にいることに危機感を覚えた合田は
すたこらさっさと退散したのだが、
二人の間でかわされた『後で』の言葉に
鹿島の心はさらにかき乱されるのであった。
後でって、その後とは一体、何の後なんだ、萌!
休憩時間にあのゴミ虫とで出店を回るのだって正直堪え難いのに、
もし実はお祭りの後、一夏の経験を二人で•••、
何てことだったとしたら!!
俺は、俺は•••
町長、お前の愛するこの町がゴミ虫の血で赤く染まってしまうことを許してくれ。
美月さん、愚かな俺を笑ってください。
そして萌、許してくれとは言わないが、
お前を愛していることだけは信じてくれ。
鹿島茂26歳。
最近町長お祝いイベントで知り合った女子大生といい仲だったりして
シスコン具合が改善されたのかと思いきや、
やはり十数年に渡って醸成してきた病理の根は深く、
『妹の彼氏』という存在を受け入れられないあまり、
妄想がその抹殺を飛び越して、
大事な人達に残す辞世の言葉にまで
発展してしまっている始末である。
「鹿島、妹は大人になったら
基本誰か別の男と結婚するんだ。
お前の手元からはいなくなる。
それを忘れるな。」
彼の悪友、清水が残したこの言葉を
素直に受け入れられるのはいつの日か。
頑張れ、合田、
義兄に認められるその日まで。
すいません、もう少しちゃんとした話を書くつもりだったのですが、
完全なアホ話になってしまいました。
一応今回は合田と萌ちゃんの話を1つの軸にしながら書いていくつもりなので、
意味のないエピソードではないのですが•••
とにあさんの「URONA・あ・らかると」より
早川英君と山辺出君の存在を話題に出しております。
お面の種類に関して三衣千月さんの「うろな天狗の仮面の秘密」
より天狗仮面さんの話題を出させていただきました。
また鹿島と仲良しということで、
シュウさんの「『うろな町』発展記録」より、
町長さんに向けても最期(笑)の言葉を。
こんなアホですがこれからも仲良くしてやって下さい。
また桜月りまさんの町長お祝い話「うろな町長の長い一日 その九 喫茶店編」
より喫茶店『Courage クラージュ』のウェイトレス、
美月さんの存在をお借りしております。
この後も登場してもらおうかと考えていますが、
大丈夫でしょうか?
問題がありましたらご指摘くださいね。
天狗面•狐面•狸面を含めた妖怪面•動物面なども
ご用意しておりますので皆さん、
どうぞお気軽に「お面」屋にお立ち寄りください。
次は萌ちゃんサイドでサイン会に行きたいと思います。
アッキさん、よろしくお願いします。