表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ 4月5日 春雨の下、命が芽吹く

本編が途中なのにすいません。

とりあえずプロローグのみ投下します。


AM2:45


「渉兄さん、コーヒーどうぞ。」

「ああ、サンキュー、直澄。」


ここはうろな総合病院産婦人科待合室。

通常なら静かな雰囲気に包まれる丑三つ時も

看護師さんや助産師さんが慌ただしく走り回る中では

睡眠不足の野郎共も別の感慨を抱かざるを得ない。


今日のうろなは春の長雨。

その静々とした雨音が

逆に病院内の喧噪と緊張感、

そしてその底にある大きな期待感を

実に上手く調和させていた。





トコトコトコトコ、

トコトコトコトコ。



雨音と喧噪のハーモニーに、

新たな足音が加わったのに気づいて、

高原直澄は苦笑いを浮かべながら

心底落ち着かない様子の兄貴分に声をかけた。




「渉兄さん、まだまだ長丁場でしょうから、

座っていましょうよ。」

「•••そうだな。」


弟分のとりなしに口では了解を伝えながらも、

恐らく本日中に2児の父となるのであろう清水渉は、

相変わらず待合室の中をウロウロ歩き続けている。

その顔はいつもは決して見せないような気難し気な様子である。

いや、実際、単に落ち着かないというだけなのだが、

いつもならそんな時でも努めて明るく振る舞っている彼を

表面的にしか知らない人間なら、

何か深刻な事態が起こっているのかと勘違いしても不思議でない様子であった。




「事前の検診でも赤ちゃんの体重、胎位共に問題なく、

意外と安産かもって言われていたんでしょう。

もしもの場合も」

「もしも!!」

「いやそんな所に目を血走らせて反応しないでくださいよ。

帝王切開なんかになった場合も、

まあ、小梅センセのちっこさなら結局そうなる可能性も高かったんでしょうけど、

担当の女医さんは若いけど腕利きらしいですし、

同意書とかの用意もできてたんだから大丈夫だったじゃないですか?

実際さっき合田ママに聞いたら自然分娩でいけてるって話ですし、

小梅センセも赤ちゃんも心配ありませんよ。」

「•••やけに詳しいな。」

「先週末の倫子さんとのリベンジデートでは

その話ばっかりになってしまいましたから。

倫子さん、入院中の小梅センセと出張先から頻繁に

メールでやり取りしてたらしくて、

もう俺への埋め合わせとか完全そっちのけで

小梅センセのマタニティ秘話を披露してくれましたよ。」

「それはなんか、スマンな。」

「いえ、赤ちゃんの話題でキャピキャピしている倫子さんを見ていると、

もう妄想のネタがいくらでも出てきましたよ!

俺の種はいつでも準備万端です!!」

「最低な反応だな、•••いや、それでこそ俺の後継者って所か。

マゾ清水の次は『種馬直澄』か?」

「ヒヒーン!!!

いつでも跨がってくださーーーい!!!!」

「ハハハハハ。

田中先生も調教が大変だな。」



ようやく顔が緩み、

足を止める渉。

その変化にしたり顔を浮かべる直澄であったが、





「二人とも深夜の病院で何騒いでいるんですか。」



夜中に騒いでいて当然というか何と言うか、

様子を見に来た看護士合田康子に二人して釘を刺されてしまうのだった。







AM3:15



「全く、清水先生が深刻そうな顔で廊下をウロウロしていると

患者さんが不安がるから待合室に来てもらったんですよ。

『小梅ちゃんは無事なのか!』とか言って、

起き出してくるだけならまだしも、

お祈りを始めるおじいちゃんまで現れちゃって、

寝かしつけるの大変だったんですから。

ようやくみんな寝たと思ったら、

大きな笑い声が聞こえて来て•••

不安なのは分かりますが、

もう少し落ち着いて下さい。」

「「誠にすいません。」」



ジト目で見てくる合田母に平謝りする教師と玩具屋。

いつもだったら息子康仁の件で世話になっていることもあり、

彼らに対し実に低姿勢で接してくる彼女であったが、

ここは自分の持ち場である。

状況をわきまえない若造達に

決して容赦はしてくれなかった。


自分の態度が周りに迷惑をかけていたことに気づいた渉も、

兄貴分を慰めようとして騒いでしまった直澄も、

ここが病院であることに改めて気づいてただただ

反省するばかりであった。




「•••とはいえ、清水先生、大分元気になったようで良かったです。

カメラまで用意して出産に立ち会おうとしたのに、

奥様から『気が散るから出て行け』と言われて以降かなりしょげて

いらっしゃいましたからね。」

「ご、合田さん!」

「渉兄さんの一世一代の『ガーン!!』顔はばっちり撮影してますんで♪」

「って、おい、いつのまに!!」

「お母様たちや小林先生達が帰られた深夜の破水で大変だったでしょうが、

高原さんがいらしてくださったおかげで

多少は緊張がほぐれたようですね。

助産師さんによるとお産は順調なようで

朝までには無事に生まれるようですよ。

•••それにしても奥様はスゴいですね。」

「どうしたんですか?」



説教から一転、

先輩ママとして優し気にパパ未満の渉を気遣っていた合田母であったが、

何かを思い出したのか感慨深げに話し出した。



「いえいえ、陣痛に耐える間、

うわ言の様に何か話しているのを助産師さんが聞いてみると、

どうやら生徒さんの名前をずっと呟いていたようで。

その中にうちの息子の名前もあったと聞かされて•••

あの子、今頃海江田高校さんの寮でぐーすか寝ているんでしょうが•••

ほんとに、本当に清水先生、梅原先生を中心とした先生方、

そして高原さんを始めとした町のみなさんのおかげです。」



そう言って今度は逆に彼女の方が二人に向かって深々と、

とても深々と頭を下げた。

その姿に二人の方もなんだかジーンと来ていると、



「康子さん、ちょっと手伝ってくれない!」

「あ、今行きます!

それでは二人とも『静かに』待っていて下さいね」



同僚に呼ばれた合田母は改めて二人に釘を刺してから、

立ち去ったのであった。




「•••入院中、夢の中にも今の生徒やかつての

生徒達が出てきたりするって、

司さん言ってたな。

それもほとんど悪ガキばかりらしいぞ。」

「もしかして俺も入ってました?」

「ああ。ニコニコしながら何やり出すのか分からないのは

今と全く変わらないって言ってたな。」

「否定できねー。」

「今日の夕方なんて昼寝してると思ったら、

『「東野、吉島!二人乗りは禁止だといってるだろう!!待て、待たんか!!」』とか、

寝ぼけていきなり言い出すからどうしたのかと思ったよ。」

「うちの常連の通称『脳内小学生コンビ』ですか?」

「俺も最初はそう思ったんだけど、そのお姉ちゃんと兄貴のことらしい。」

「ああ、うろラジのパーソナリティさんと吉島農場の跡とりさん!

良く考えたら町の若い連中はほとんど小梅センセに世話になっているんですよね。」

「全く、教師としてはまだまだあの人の足元にも及ばないって改めて痛感するよ。

でもそれだけ多くの生徒達がついてくれているんだ。

きっと大丈夫だよな?」

「もちろんですよ!!」





彼女が育んできた数多の若木達。

二人がその祝福を確認し合っている最中だった。



えあああーーーーー!!!

あぎゃーーーーーー!!!



「!!!」


待合室に響いてくる二つの新たなハーモニー。

二人は顔を見合わせてそれが聞き違いでないことを互いに確認すると

すぐさま部屋から飛び出していったのだった。







多くの物語が奏でられるうろな町。

今朝、そこに新たな命の物語が二つ誕生した。


桜也(おうや)桃香(ももか)


春雨の下生まれた、

この小さな芽吹きにどうか祝福を。


ここから本編に登場したサブキャラ達のうろな町でのその後を

中心に書いていく予定だったのですが、

大変申し訳ないことに本編が完結出来ていませんので、

そちらを優先して頑張ります。

とはいえ年度始めバタバタしておりますので、

気長にお待ちいただけると幸いです。

リアルタイムでの出来事については覚え書きの方で更新させていただきます。


清水Jr達の誕生話ですが、

おかしな点もあるかもしれませんので、

お気づきの点がありましたら気軽にご連絡ください。


もちろんこちらの作品でも継続してうろな町の皆様とコラボさせていただければと

考えております。

さっそく菊夜さんの「うろラジ!」より、

脳内小学生コンビこと新中学3年生東野晴音君と吉島直也君、

その晴音君のお姉さんである夏香さんと

直也君のお兄さんである慎也さんの名前を出させていただいております。

こちらの作品の「夏香 考える人になる 過去編」のお話とリンクしておりますので

以下のURLから是非そちらもごらんください。


それではうちの新たな家族と共に、

今年度もどうぞよろしくお願いします。


コラボ作品URL

うろラジ!

http://ncode.syosetu.com/n0936bv/

夏香 考える人になる 過去編

http://ncode.syosetu.com/n0936bv/15/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ