聖女までやってきたようです
来ないで下さい。
と脳裏に思い浮かんだ俺は絶対悪くないと思います、聖名明です。
「しかしなあ、セーナ。王たっての頼みなんだぞ?」
「関係ないです。面倒なだけだし」
騎士団長が困惑しているが知ったことではない。
料理長が面白そうにこっちを見るが、いいから助けて下さいよ。
つーか調理場に特攻してくるなと何度言えばわかるのかなこの騎士団長はっ!
「あー。うー。聖女と言えば、諸外国にその名を轟かす程の美人だぞ?」
「別に興味ねーっす」
「会いたくないのか?」
「特には。つーか、なんで俺に美人勧めてんの? アンタ俺に浮気して欲しいの?」
「うっ…!?」
俺に興味を持たせたいのか駄目押ししてくるが、そんなの関係ねえ。
俺のあっさりとしたカウンターに簡単に沈む騎士団長に俺は肩をすくめた。
つーか、聖女との会合ってなに。
嫌な予感しかしねーよ。
「う…ううう…」
「諦めたらどーだ? 大体料理人が聖女と会合なんて聞いたことねーよ」
にまーと笑う料理長に言いたい。
アンタいま会合を見合いって読んだだろっ!!
☆
事の起こりは数日前。
この世界では結構な数の神様がいるので、その数だけ神殿もそこかしこにあるとかは知っていたのだが(美食の神様は時々夢の中にやってくるしな)、何か巫女様っぽいのもその神殿の数だけいるらしく。
ある日ある時、大国の神殿の聖女様が言ったそうな。
「神鳥に会ってみたいわ」
聖女様はお年頃。
かつ、神鳥を大国に移せたら素敵ですねー☆って事で、会わせろコラとうちの王様に要求が来たんだとか。
うわぁ~嫌な予感しかしないね!
むしろ来んなよ!
つーかそれ王様が断れよ! 神鳥欲しいですって言われてんじゃん!
「婚約者がいるから会えませーんじゃダメなの?」
「いや、単純に会いに来たいとかいうそういう要求だからな…」
「じゃ、お断りで」
「一介の市民が王の頼みを断るなよ!!!」
チッ。
面倒な。
「つか、俺なんでそんな要求に応える必要あるわけ?」
「え…」
「神鳥は別に、巫女に会わなきゃいけないわけでもないし、俺は会いたくないし、俺が会わなきゃ理由もないよね?」
「政治的な問題が…」
「しらねーっすよ。なんで一介の市民なのに王様の政治的なナニカを動かさなきゃなんねーんっすか」
「……」
俺、変なこと言ってないよね?
じゃあ出てけって言われたらまあ、1回出て行きかけてるわけだし。
出て行けなくもないしな、今は。あの危険な村に行くのはちょっと怖いけどそーっと逃げて他の街を探せばなんとかなるだろう。
うん。
「……いい加減諦めたらどうだ?」
「王としてはセーナ自身に断って欲しいみたいだからな…」
「タイヘンダナー」
がくーっとする騎士団長に棒読みする料理長だが、俺は知らん。
とりあえず心労で禿げないといいね!
禿げないようには祈っててやるよ!
☆
「神鳥の持ち主がいらっしゃるというのはここでしょうか?」
さらに数日後。
料理してたら問答無用でなんかやってきました。
…うん。
王様、どう諦めたのかな? 俺怒るよ?
ちら、と俺を見る同僚に俺は首を振る。
カ カ ワ ル ナ
無言の信号に頷いて行く同僚たち。
なんだろう仲間冥利に尽きるね!
単純にかかわりたくねーよと思ってる人のが多いかもしれないが、差し出そうとするやつがいないならいいんだよ別に。
声をかけたにも関わらず、誰も出てこない調理場に段々ざわめきが広がっていく。
うん?
しらねーよ、俺王様に何も言われてないし。
婚約者騒ぎの時のように流されるだけの俺だと思うなよ!
「あ、あのー…??」
鈴を転がすような声音が困惑に染まる。
従者が恐らく聖女の困惑に周りに文句を言ったのだろう、台詞自体は聞こえてこないがざわめきは酷くなる。
「りょうりちょー、俺ちょっと休憩してきますねー」
「ああ。捕まるなよ」
「らじゃー」
さくっと影に入り、さくっと転移。
出会い? 知らないよ。
顔も見る気ないしさっさと逃げようかなー、と思っていたら何故か自室のど真ん中に婚約者さんがいました
うおう!?
「すみませんアキラ様!」
「いや、いきなり自室にいられたのは吃驚しましたけど…」
むしろ転移見られちゃったー★
と思ったけどまあステおかしいのは知ってるだろうしいいか。
なんか聞かれたら神鳥の奇跡ですといいはろう。
「あれは…その、神鳥の持ち主は『謙虚なので会いたいとは言えないようです』とか曖昧な事を伝えた結果、会いに来ても良いと判断されたらしく…」
「そのまま料理してる処に来られた、と?」
「ええ。視察であれば止めようがありませんから」
あんな名指しの視察があるかよ!!
それでもって、婚約者の彼女が何故ここにいるかと言うと。
「わ、私はその…見ない方がいいだろうと言われまして…」
「見ない方がいい?」
「…聖女様は、美しい方、ですから…」
遠い目になってるけど、それ俺が聖女に惚れるの確定事項になってない?
何その人の意思無視してる意見。
「と、いうかアキラ様は会っていないのですか?」
「会っててここにるわけないじゃないか。面倒だから逃げて来たよ」
「め、面倒…って、聖女様ですよ!? どれだけ名誉なことか」
「興味ないし、神様になる気もないから会う気もないよ」
ぽかーん。とするサルディナさん。
この世界の人たち的には、聖女も王様も偉い人なんだろうけど。
俺にとっては何も関係ない。
「で、でもアキラ様…」
「何?」
「聖女様と言えば、この国の…いえ、ここの世界でも有数の、権力者なのですけど」
「うん」
「い、いいのですか」
「いいんじゃない? だって神鳥欲しいって言っても、戦争したら攻めてきた戦力ごとこの国が滅びるしね。力づくとか不可能だよ」
まあ。
この国に攻めてこられたくなければ、とか脅されるかもしれないけど。
「……」
内容が内容に絶句するサルディナさん。
男ならまあ、ここで君のためならとかやらなきゃいけない処なんだろうか。
しかしなあ。まだそこまで惚れてるわけでもないんだよね俺。
ぽーん。
「ん?」
「何か?」
いきなりのクエスト音に首を傾げる。
なんだろ。
『クエスト:神鳥を救出せよ!
内容:なんか餌付けされて連れてかれちゃったみたいだけどいいの?』
………………………。
「あ、あの、アキラ様?」
「あの馬鹿鳥…」
そりゃあ、目的は神鳥ですから!?
スノーの好物とか知って、寄せてくるとか出来るかもしれないけど!?
何捕まってんだあの馬鹿鳥はー!??!?
ステータス画面を見ると、眷属に関しては変更がない。
忠誠心の処がちょっと、他の美味しいものもいいな♪になってるけど。
……。
どこまで食に忠実なんだ!?
「ま、いいわ」
「え? え?」
「サルディナさんは、俺に神鳥のオプションがないと婚約者としては嫌?」
そういや俺の婚約者騒ぎもスノーのせいだったよなー、と思いながら。
目の前の彼女に聞けば、彼女は静かに首を振る。
「え、いいえ? 私は神鳥様には会ったこと、ないです、し…」
「うん?」
「そ、それに…アキラ様は私に、優しく、してくれますし…」
ぽ、と頬を染める彼女の頭を撫でる。
うん。
まあ、いいか。
『クエスト放棄しますか?』
Yesをぽちっとな。
ま、縁があれば帰ってくるだろ。
『えー!? 本当に破棄する気なの!?』
しっとりしてる雰囲気なんだからマジ邪魔すんなよ!
もう一回ハイを押して、向き直る。
「サルディナさん、なんか今日はもう仕事にならないだろうしデートしない?」
こうして俺はいつも通り平和を手に入れたのだった。
あ? スノー?
国境前でホームシックになって帰ってきたよ。
神鳥って自力で泣いて眷属呼べるんだね…………。
面倒な事には手を出さない、それが主人公。




