神獣クエスト
この話は作者が適当に考えついたネタだけでできています
平和だ…。
…とても平和だ…。
晴れやかに澄み渡る空。
窓から見下ろせる景色は、早朝の爽やかさをまとっている。
うん、今日は一日ベッドでゴロゴロしながら休日をまんき――――。
ぽーん。
『緊急クエストを受注しました』
―――――つ、出来ないらしい。
☆
どうもこんにちわ聖名明です。
王城の食堂の料理人見習いやってます。
働き始めて1カ月、賄いとか大皿料理とかなら任されるようになったよ!
HAHAHA。
そんな"ただの"料理人の俺にクエストってなんだい?
いらないよねーーー!?
「緊急て」
いやぁぁぁな気分になりながら、システムを開く。
イヤね、このクエストって奴料理中も結構出てたんだよね
クエスト:肉じゃがを布教しろ、とかさ。
やりましたけども。
大好評でしたよ。この世界煮物の味付けを甘くするって概念弱いんだよね。
まあ美味しいものは美味しいんで別にいやがる事でもないし。
布教自体は特に問題なかった。
クエスト報酬も称号取得とか、そういう地味な効果っぽかったから受けるのにも躊躇しなかったし。
現在の俺のステータスはこちら。
『akira seina(聖名 明)
種族:人間
性別:男
Lv:3
称号:和食料理人
status
skill
加護:神様の気まぐれ・美食の女神からの微笑み
"緊急クエスト:神獣を保護せよ"を強制受注中』
微笑みですよ。
女神っていうと美人だと思うよね。
うん、夢で見たよ福笑いの女の人の笑みを。
とてもふっくらでした。
いやいやいいんだ。
女は体型じゃない、それは俺も知ってるんだ。
肉じゃが一度食べてみたかったの美味しいいいぃ! とかかっ食らってる様子がまるでブ…なんでもないなんでもない、笑顔はかわいかったしイイ食べっぷりだったから全然問題なかったよ!
…でもフォークはせめて使え。
で?
神獣ってなんすかね。
詳細オープン!
『緊急クエスト:神獣を保護せよ!
緊急度:MAX
内容:神獣が100年に一度の主を探してさ迷っています。神獣を追いかけている眷属が街の脅威のため、既に討伐依頼が出ています。尚、神獣を殺してしまうと、王都が滅びます。至急保護して下さい』
…。
な ん だ こ の 突 っ 込 み ど こ ろ の 激 し い ク エ ス ト は。
相変わらずすぎるよ神様!
つーか脅威なのは結局眷属なのか神獣なのかどっちだよ!
ってか神様の獣なのにコレ[迷子]なだけだろ!
保護した後どうするんだよ!
『内容:とりあえず保護してよぅ』
う・ぜ・ぇ!!!
俺はただの料理人だって言ってんだろが!
こんなクエスト受注させんな!
つーか、眷属って神獣が命令すれば聞く、とかいう眷属ですよね?
なんで追っかけられてんのこのケモノ。
しかも殺したら王都滅ぶってどういうこと。
…え? 滅ぶの?
「ちょ! 俺の職場滅んじゃうの!?」
待て待て待て待て、落ちつけ俺。
俺の職場:王城の食堂。
食堂のあるとこ:王都
王都滅ぶ=職失う。
…わぉ、困った。
「エェー…保護とかマジわからねぇし…。下手に手を出すと眷属に殺られるとかじゃないの…? しかし職を失うのもマジ困る…他の街とか村とかどこにあるのかもしらねぇし…」
とりあえずスキルを確認。
ええとー…給料まだ出てないから剣とかは持ってねーしー…。
魔法で何とかすればいいんかな…。
「うーん…つか、このクエスト既に受注済みになってるから、キャンセルも無理ぽいし…行くだけ行くか」
せっかくの休日なのになあ。
大した手持ちもないから出るつもりもなかったんだけど、仕方ない。
俺は着の身着のままベッドから起き上がると、ドアへ向かおうとして。
「…つか、場所どこよ」
『内容;始まりの森だよん♪』
「…もう突っ込むのもダリィ」
くるくる変わるクエストウィンドウを出しっぱなしにしたまま、俺はそのまま部屋を出る事にした。
ウィンドウちなみに俺を追いかけて来るから便利。
☆
「…で」
軽く走ってみ覚えのある森へ入った途端、感じる、気配気配気配…。
あれぇ、なんでこんなに生体感知あがってんだろ?
前走り抜けた時には何も感じなかったんだけど。
とりあえずもっかいステータスオープン。
スキルの欄を注意深く見てみると、変な項目が。
『スキル:気配察知
Lv:3 (半径100mを網羅)
習得条件:サボる時は命がけ! 料理長に気付かれない事で習得したよ!』
…。
…見なかった事にしよう。うん。
俺は最初からもってた! 持ってたんだ!
で。
「気配は感じるけどどれが神獣だ…?」
敵意は特に感じないが、ひたすらにうろうろうろうろしている気配がいっぱい。
なあ、これ。
やっぱり迷子だよね?
探りながら歩くと、見えてくる黒いでかい物体。
なんだこりゃあ…。
熊?
ごりら?
…とりあえず振り向かないでほしいんだけど、も…。
「グルァアァァァァ!」
「わきゃーーーー!?」
速攻、目があって叫ばれたよーーー!??!!?
やばい食われる!
やばい死ぬ!
ぴきーーーん! とかたまってその熊もどきを見つめてみると、それ以上は近づいてこない。
…?
あれ?
「オオォーン、オオォーン」
「なんか悲しんでますけど!?」
その声に呼応するように森のあちこちで同じ声が響く。
つーかすげぇ合唱だな。
…あれ? 仲間呼ばれてるとかそんなオチ…???
1匹1匹、黒いでかい物体が集まってくる。
何もしてきてないけど、こちらをじーっと見ながら…みな、がら…。
あの…。
包囲されてるんですけど…。
「さ、さんじゅうろっけー…」
「ぐる?」
「に、逃げ…逃げれん…と、飛んでみる? 風とかで飛んでみる?」
俺はパニックになりつつも、攻撃魔法風で上に飛べないかなあア、とか、思って見る。
あ、でもここで風魔法とか使ったら台風の目的にもしや周り全滅させれる?
ところでクエストって熊もどき全滅だっけ?
…まとまらないけどやらんと死ぬ気がするーーーーーーーーーー!!
スキル、スキルと脳内で唱える。
前やった時はふっとべー、で木が飛んだんで攻撃はきっとイメージで出来る、はず。
出来なくてもやる。
「よ、よし…風…『ぽーん』…ってなんだよ今度は!」
間抜けな音に気付いてクエスト画面をちら、と見た
『内容:保護だってばぁぁぁっぁあ!!!!』
あ、神様焦ってた。
サーセン。喋ってくれて助かりました。
「保護って事は別に攻撃はしてこないのか…」
「ぐるる…」
包囲するだけで寄ってこないもんな…。
うん…。
しかし包囲されたままで何をするんだろう…。
遠吠えが段々大きくなる。
…あれ? これってもしかして…仲間だけじゃなくて、『喚んでる』?
首を傾げた瞬間に、頭にぼとん! と何かが落ちる気配がした。
「は、え?」
『くるるるるるー!』
…と、鳥?
ばさっ、ばさっ、と羽が羽ばたく音と、白い羽が視界を舞う。
なんだこれ、前が見えな―――。
ぽーん。
『神獣の保護を確認』
『クエスト神獣の保護をクリアしました! 眷属に帰還を命じて下さい!』
…。
え、俺が命令すんの?
っていうか唐突なクリアだね!?
「え、えーととりあえずコイツは俺が預かるんで帰れ?」
「「「オォォォーン!!」」」
「は、え!? 泣くな、鳴くなよ!! 何この滝のような涙何なん!?」
だっぱー、と涙を流し続ける熊もどきが怖い。
しかしとりあえず通してくれるらしく、モーゼのように道が出来たのでそこを恐る恐る歩く。
ばっさばっさうるさいなこの神獣…前みづれぇよ…。
俺が通り過ぎると、1匹、1匹と気配が離れていく。
あー…これでいいのか…。
とりあえずクエストクリアなら王都が滅ぶ事はないだろう。
そう見切りをつけ、俺は王城の職員寮に帰る事にした。
…後ろの涙にくれてorzの体勢で見送ってくれてる熊もどきとか見えないからね俺!!!
後この鳥でかくて邪魔!
☆
その後。
「くぉら!!! アキラてめえ、食堂に鳥なんぞ入れるな焼き鳥にするぞ!」
「うわぁぁああ、すみません!!! でもそれ殺すと王都滅ぶんで勘弁して下さい!!」
「「「「は???」」」」
俺は鳥にまとわりつかれては追っ払う羽目になっていた。
保護はしたものの、テイミングっぽい事はしていない。
ぽいぽいーと、王都に離してみたのだがこの白い鳥、俺から離れてくんないのである。
もうクエストクリアしたんだから離れてくれればいいのに…。
あー…見た目はなんか、鳩っぽいからだれも神獣って気付かないみたいなんだけど。
あれ最初もっと大きかったよね、なんでサイズ変わってんだ…。
ぽーん、とクエスト欄に何かが追加された音がする。
俺は見ないふりをしたいなあ、と思いながらシステム画面を見る、と。
『クエスト:神獣のお願い』
『内容:いいから眷属にしてあげなよ酷い子だなァ』
…。
だからう・ぜ・ぇ!!!
馬鹿なの?! 動物とか衛生面的に超入れちゃダメな代表だよ!?
眷属にして食うよ!?
『内容:神獣食べると神様になれるけどなりたい?』
「俺が悪かったです勘弁して下さい」
「おいアキラ、何空中にお辞儀してんだ相変わらず変な奴だな」
「いえ、身の危険がありまして…」
叱られて離れた白い鳥は、今は窓の外をくるり、くるりと飛んでいる。
あー…いい天気なんだけど平和どこだー…。
「まー…慣れたらそのうちな…。とりあえず聖域に乱入は禁止!!」
「くるるるるるー」
俺は溜息つつ。
クエスト受注をぽちり、とおしたのだった。
…そんな悲しい目で見られたら負けるんだよ!!!
『クエスト:神獣のお願い』
『内容:眷属にして欲しいとこちらを見ている』
『報酬:神鳥の加護・神様から生温かい目』
…。
微妙な目で見ないで下さい…。
料理場に動物を入れてはいけませんよ!
という一言が言いたいだけ。