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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

思い付き短編

精霊は呪う

作者: 色輝

しりあす注意。グロ?注意。死亡注意。

台詞や会話がほぼなく、地の文ばっかりです。


 私は一体、どれほど我慢すればいいのだろうか。

 私はメディアンス子爵家が長女、リリアナ・メディアンス。

 子爵家の使用人だった母は幼い頃に亡くなり、私は子爵令嬢と育てられながらも、虐げられる日々を送っていた。



 腹違いの一つ下の妹は愛され可愛がられ甘やかされ育った。私は、ただ貴族の娘の義務を果たすための訓練に明け暮れる、単調な日々を送るだけ。

 誰も愛してくれなかった。一度も褒めて貰えなかった。使用人も、皆同情の目で見るだけ。誰も助けてなんて、くれなかった。

 ううん、一人だけいた。二つ上の男の子で、私を唯一庇ってくれた使用人見習いの子。小さいから何も出来ないと、私のために泣いてくれた優しい子。


 彼がいるから、私は頑張れた。冷たくされても、詰られても、嘲られても、殴られても。ただ耐えて、いつか解放される日を夢想した。

 いつか私は政略結婚で余所に行く。その時に、少しでも家よりマシなようにと願いながら。



 そして、15歳のある日。私は侯爵家の彼の有名な方に見初められたらしく、結婚を前提にお付き合いを申し込まれた。

 彼は、とても有名だった。流れるような金糸の髪に夏の空のような碧眼、美しい容姿。美貌を湛えた彼は、特に浮き名もなく清廉潔白と女性に人気があった。


 嬉しかった。戸惑いはあったけれど、自分を好いて貰えて。あの人に頼りすぎる自分を変えたいと思っていた矢先でもあったから。

 侯爵家の申し出を、子爵の私が断れるはずもなく――元より受けるつもりだったけど――私達は交際を始めた。


 小さい頃から護ってくれたあの人は、とても喜んでくれた。どこか複雑そうに見えたが、私の気のせいだろう。

 三つ下の弟も、純粋に喜んでくれた。この子も私に味方してくれるが、何れ子爵家を継ぐのだからと、あまり両親との間に亀裂を作らないよう、表立って擁護しないようにキツく言ってある。


 この時の私は、未来は良い方に向かっているのだと、そう思っていた。




 清い交際から、半年経った頃だろうか。次第に私も彼に惹かれ、一緒になる想像が出来るようになってきた矢先だった。

 彼は私に、最も残酷な裏切りをした。


 ――彼に、他に愛する人が出来たのだという。それも、相手はあの――――私の妹、だと。

 彼の腕に絡み付く妹は、謝りながらも顔は嫌らしく歪んでいて、冷水を頭から被せられたようだった。


 妹は、いつもそうだった。

 私の物なら何でも欲しがり、あげるとすぐに飽きたと言って捨てた。私より高価な物も、美しい物も、何でも持ってる癖に、最低限しか与えられていない私の物を欲するのだ。

 断っても、継母が出て来て結局は取られ打ち捨てられた。――大切な、母の形見でさえも。

 そして今回、妹は婚約者すら奪い去った。



 私は悲しみに明け暮れた。悪いのは妹と彼なのに、何故か私が罵られ醜聞が流れ、部屋から出る事さえ出来なくなった。

 日に日に痩せ細り、抜け殻のようになった私は、あの人と弟と話す時だけが人に戻れたような気がした。

 それでも、どうやらとことん私は世界に嫌われているようで。



 もう限界を感じていた私に、その日もあの人が訪ねてきてくれた。ただ、どうも様子がおかしい。いつも暖かく優しい瞳は、冷たく蔑むような瞳になっていて、私を見下ろしていた。

 困惑し、どうしたの? と尋ねた。いつもと違うあの人に、胸がドクドクと嫌な高鳴りをし冷や汗が流れた。


「所詮、使用人の卑しい娘だな。家族に愛されず婚約者にも捨てられ、誰にも嫌われる醜い女だ。今まで俺に縋り付いて必死に媚びを売るお前は、最高に笑えたよ。流石、あの薄汚れた女の娘だ。穢れるからもう俺に近付くな。嫌々いてやったのに、調子に乗るな娼婦の娘が」


 口を挟む隙もなかった。告げられたそれは、私の心を抉り、粉々にするには十分すぎる威力があった。

 何故、と問いたくても、喉は引き攣り体は全く動かない。嘲笑を残し、一度も振り向かず部屋を出たあの人を見て、私は。

 ――――私は、壊れた。




 人形のような生活が続いた。手酷い裏切りを受け、何もかもに絶望した私は、自分では何も出来なくなっていた。

 その世話をしてくれたのは、弟だけだった。弟は私に食事を与え体を拭き下の世話まで甲斐甲斐しくやってくれて、毎日色んな話を聞かせてくれた。

 ただ、そんな弟にすら私は心を開けなかった。また裏切られるんじゃないかと怯え、恐ろしくて。弟にすら裏切られたら、私は発狂してしまうだろうから。



 ――そんな生活にも、疲れ果てた頃。私は最後の追い打ちを掛けられた。


 その日、弟の話を聞いている頃、部屋に初めて両親と妹、そして……私を裏切った二人の男がやってきた。

 元婚約者の彼は、自分のせいで君を云々と、その耳障りな低い声で何やら言っていた。

 一体何をしにきたのだろうか。また私を貶めに来たのか。だったらさっさと済ませて帰って欲しい。


 何の反応もしない私に、父親は怒鳴り頬を叩いてきた。それに弟が怒り、何故かあの人が諫めた。何が目的なんだろうか。

 衝撃で椅子から落ちたまま動かない私を、弟が抱き上げ、また座らせてくれた。私は、ありがとうと、久し振りに言葉を発した。掠れた小さな声だったが、弟には聞こえたらしい。くしゃりと泣き笑いを浮かべた弟が、堪らなく愛しかった。


 暫く何事か騒いでいたが、漸く本題に入るようだ。


「お姉様、あたくし、彼とついに結婚しますの」

「君にも僕達の結婚式に出席して欲しい。君に祝福して欲しいんだ」


 バカな二人は、バカな事を宣った。

 祝福して欲しい? 私に? 裏切り者の貴様・・を? 何故?

 弟はそれに激昂し、裏切り者と売女・・を酷く罵った。

 それを、バカ親が一喝し、まくし立てるようにここに来た理由を言い募った。


「貴様は体と顔だけが取り柄のあの女の娘だ。貴様にもやっと縁談が来た。サイドヴン伯爵に嫁げ。精々その体で捨てられぬようきっちり奉仕し少しは我が家の役に立て。折角この家に置いてやっていたのに縁談の一つも纏められぬ穀潰しの役立たずがッ!」


 頭に血が上ったクズ(・・)は、どうやら裏切り者がこの場にいるのを忘れていたらしい。愕然としている。

 弟から聞いた話だ。妹は己を、『後妻の子で虐げられながらも気丈に生きる健気な娘』として裏切り者に迫ったらしい。甘やかされ我が儘に育った売女が健気とは笑わせる。まあ、そんな縁起に騙されるクズもクズだがな。


 クズ同士の言い争いを遠くに聞きながら、醜く顔を歪めた売女母娘を眺める。側にいるもう一人の裏切り者を一瞥し、ニタリと嫌らしい笑みを浮かべたクズ母は、甲高い耳障りな声を発した。


「リリアナ、この男はアンタ達親子を恨み復讐するためにアンタを庇っていたのよ。知ってる? この男の父親はアンタの母の夫で、アンタ達は血の繋がった兄妹なのよ。まあ最も? アンタは仕えていた子爵家当主に陵辱され生まれた、醜い子供なのだけれど」

「なっ…!!? はっ、話が違うではありませんか!! 母は金に目が眩み子爵の愛人になったって……!!」

「嘘よ。決まってるじゃない! ワタクシあの女が嫌いだったし、アンタを使って貶めようとしたのよ。あの女は死んだから、娘を狙ってね!」


 高笑いをする売女母。真っ青になり膝を突いた裏切り者のクズ。ここでバラして、一体どうするつもりなのだろうか。

 バカ親と言い争っていたクズも、真っ青だ。裏切り者二人は私に縋るような目を向け、その場で土下座した。


 謝ってるらしいのは分かる。でもどれも響かない。ただ……私に沸き上がるこれは、憎悪か。

 負の感情が、私の壊れた心を黒く染め上げていく。悔しい、辛い、悲しい、憎い、殺したい、貶めたい、堕したい――――復讐したい。


 黒く染まった心は、ただそれだけを秘めた。取り敢えず、打撃を与えよう。

 立ち上がった私は、ふらつきながらも棚の花瓶を手に取り、水を掛け、裏切り者の頭に落とした。死ぬほどの威力はない、今度はヒールで踏みつけ、裏切り者、と罵る。

 泣いているのか屈辱によるものなのか、二人は震えている。その踏まれながら濡れて震える姿は最高に惨めったらしく、最高に気分が良かった。

 ただ、私に力はない。だったらいっそ、体を張ってクズ共の心に爪跡を遺せばいいのではないか。そう考え、壁に叩き付けて割った花瓶の鋭利な破片を手に取った。

 バカ親子は弟が押さえてくれていた。裏切り者に顔を上げるよう言うと、惨めな顔で恐る恐る私を見上げた。私の手の凶器に息を飲む姿も、また滑稽で私を嗤わせた。


「全員呪ってやる。復讐してやる。永遠に許さぬぞ。亡霊となりて貴様等に苦痛と屈辱と汚辱の絶望を与えてやる」


 ただ静かに、自分の物とは思えぬおどろおどろしい低い声で呪詛を紡ぎ、弟にだけは笑みを送り――……私は、首を掻き切った。

 首から噴水のように飛び出た私の赤い血はクズ共に掛かり、駆け寄る弟を押し退けバカ親子にも、傷口に手を突っ込み思い切り血肉を掛けた。

 ――――痛みなんて感じなかった。


 私は、リリアナ・メディアンスの人生は、今日この時を持って、幕を下ろした。




 ――――リリアナ・メディアンス。私の名である。否、生前の名と言えばよいか。今の私は名もなき亡霊、と言ったところだ。


 自決した私は、ささやかな己の葬儀を見、灰になった自分の抜け殻を見送り、あのクズ共への復讐を誓った。

 リリアナ・メディアンスの名はもう使いたくない。クズ共に呼ばれた名など必要ない。


 復讐、と言っても、私に出来る事は精々夢枕に立ち呪詛を吐く程度だ。まだ(・・)これしか出来ないのは歯痒いが、ジワジワ苦しめるのもイイ。

 弟の夢枕にも立った。泣き腫らした目が痛々しく、私はこの子を裏切ったようなものだから。謝罪と愛を囁き、立ち直るまで常に側にいた。――それが、余計私への依存性を高めるのは、この時は気付いていなかった。


 日に日に憔悴していくクズ共を嘲笑い、三年の月日が流れた。その間、物を浮かせたり力を込めた声を脳に直接聞こえるようにしたりと、どんどん力は強まり、裏切り者二人は特に怯え毎日謝罪し祈っていた。 バカ親子は、怯えてはいるが怒りの方が強いらしく、何かする度に怒鳴り止めろと命令した。その際は特に酷くし、懇願するまで続けた。

 私が憎悪だけに支配された悪霊とならずに済んだのは、ひとえに愛しい弟の存在と、私が亡霊となり力を持つ事が出来た協力者・・・のお陰だ。

 この三年、私はただ力を得ただけではない。協力者である者と邂逅し、己の存在を知った。

 協力者は、世界の祖であり原初の神であり神秘と奇跡の存在、精霊の頂点。全てのヒエラルキーのトップに君臨する不動の王――――精霊王だった。


 精霊王は、偶々私を見つけたらしい。強い憎しみと呪詛、そして己の死を持って呪いを発動させた私が暴走しないよう、サポートしてくれたようだった。

 私には呪の才能が異常なほどずば抜けてあり、それにより死のエネルギーと反応し、呪怨の亡霊となったのだとか。それまでは危険だと判断した私自身が無意識に才能を抑えつけていたらしい。

 最初はとてもじゃないが信じられなかった。何故なら、呪力と言うのは大変稀少で、汎用性の高いモノだからだ。呪力持ちは国に保護という名の確保をされ、軟禁されて一生檻に閉じ込められたまま生涯を終えるのが普通だからだ。勿論、野良呪力士も存在するにはするが、大抵は国の圧力が掛かり権力の届かない冒険者などになるのが常識だ。

 ただ、まあ、それならば辻褄が合うのだ。呪力士とは、のろいもまじないも行い、物に付与する事も出来る。付与術士と呼ばれているほどだ。

 私のポルターガイストや夢渡りは、ゴースト系モンスターやサキュバスやインキュバスの使う呪力に似ている。一部のモンスターも呪力を使うので、昔は呪力士とは迫害の対象だったらしい。その癖、戦争で呪力士の力を目の当たりにし利用価値を見出してからは、掌を返したように我先にと確保に動くのだから、国とは信用ならない。

 閑話休題。

 まじないとは祝福とも呼ばれ、力が強い呪力士ほど奇跡を起こす。直接的な戦闘力はないにせよ、日常でも戦闘でも優れているのが呪力士だ。


 但し。呪力士の絶対数は少ない。多少使えるだけの者ならいるが、精々髪を軽く引っ張る程度の呪いしか出来ず役に立たない。

 そんなだから、呪力の使い方とはかなり狭い。汎用性がある万能力とは言ったが、昔は迫害されていたので、魔術のような呪文が文献として残っている訳ではない。邪の力だと文献は片っ端から燃やされたらしい。だから、今出回っている呪力付与がされた武器は似たような物が多い。まあ、それら全て超高価な代物で数も少ないが。

 呪力とは、呪文の羅列と順序が重要で、未だ法則が分からないブラックボックスとも言うべき技術だ。

 ――…それを私は、感覚だけで使いこなせる。


 感覚だけで、書物で知った既存の呪力から、思い付いた物まで簡単に使える。それが、精霊王を信じる原因となった。

 長々と語ったが、精霊王は根気強いというか、一度手を出したなら最後まで付き合うと言って、力を鍛えるのを手伝ってくれたし、私はいつの間にか精霊王に気を許していた。人間じゃなく、誠実だというのが大きい。


 弟と、精霊王の存在が私を支えてくれた。

 そして、私は精霊王の力添えにより、精霊へと昇華された。

 自然発生する精霊となった私の魂は、永遠を精霊王と共に生きねばならない。そう言って精霊王は謝ったが、私は謝る必要はない、と笑った。弟と精霊王の前でだけは普通に笑えるのだ、その一人と共にいるのも吝かではない。



 私は、呪を司る精霊となり、行動を起こした。 社会的に、肉体的に、精神的に追い詰めてやる。やるならとことんやる。私の恐ろしさを、思い知らせてやる。


 そのためには、弟の協力が必須だった。何故なら家を潰すから。当然弟は私が護る。精霊王お勧めの国にでも行って、一緒に暮らすのもいい。精霊王も賛成してくれている。

 家族をあらゆる意味で殺す。そう告げると、弟は嬉しそうに笑った。

 姉様を追い詰めたアイツ等が憎いと、姉様といれるなら他はどうでも良いと。……心優しい弟は、私のせいでここまで……否、言葉にはしないでおこう。私に出来るのは、復讐後この子の幸せのため尽力を尽くす事。



 まず、家の弱みを握る。叩けばいくらでも埃が出るから簡単だった。裏切り者の弱みも必要だ。

 16になり社交界にも出るようになった弟には、私が流す噂の真偽を曖昧に答えるようにして貰う。私の件で色々噂があったし、それを利用する。

 ここ三年のクズ共の変わりようも皆面白おかしく想像を掻き立てていたようだから、これも簡単だ。貴族社会は意外と噂が回るのが早く、私は家族に虐げられ実の兄に貶められ婚約者にも裏切られ、死ぬ事によって裏切り者を呪った哀れな女と流した。ほぼ事実のその話には、尾鰭背鰭が付き私はとんでもない悲劇のヒロイン、メディアンス子爵家とその使用人、元婚約者は極悪非道、関われば呪われるとなっていた。

 これにより、彼等に関わる人間は極端に減った。簡単な意識操作も出来る呪力は、噂を流すのに役立った。噂をお喋り好きな令嬢諸君の脳に植え付ければ良いだけなのだから。


 ここまでは、順調。精神的に追い詰める。バカ親共は金と権力、裏切り者二人は……愛、か。そこを攻めよう。

 クズ兄は、私を裏切った癖に愛していたらしい。だから、夢で手酷く振り嫌悪を示し続け、優しく甘く囁いては見放し、上げて落とす。信用させてから裏切る、と言う同じ手を使ってやった。

 元婚約者は最近家族にも敬遠され、友人も離れていったらしいし、幸せだった頃の夢を見せ最後は彼等に罵られ見放される夢を見せた。これも上げて落とす作戦で、序でに二人とも男として不能にしてやった。


 クズ家族だが、コイツ等は慎重にやらねば弟にも被害が行く。だから、王族を利用する事にした。 弟に頼み、国王に謁見して貰った。やるのは、脅迫だ。

 偉そうにふんぞり返る国王に、立ち並ぶ大臣や騎士達。重要な案件として申し込んだから、まあ当然だ。メディアンス家と言えば、今一番話題の家だ。その中で唯一の良心と言われている弟が、謁見の申請だ。当然無碍には出来ない。それほど噂は肥大化しているのだ。更には、内容が重要とだけの怪しい物なのだ、警戒して重役や騎士を並べるのは普通だろう。

 狙い通りだった。


 ここまで来れば、こっちの物だ。私は精霊ななり可能になった顕現化で姿を現す。先に弟にやると言って貰ったので、騎士は構えはしたが掛かってはこない。

 私は、面白そうな表情をする国王に、メディアンス家を潰せと言った。潰せるだけの材料は提供してやる、弟以外のメディアンス家の物を罪に問わせよ、と。

 当然、偉そうに命じれば反発される。唾を飛ばして罵る爺共に嘲笑を浮かべた。

 分かっていないようだな、と。私は呪力士だ、私としてはこのような小国、丸ごと呪って復讐してもよい。ただ、最愛の優しい弟の頼みにより、国を呪うのは止めてやった。呪われたくなければ、私の言う通りにしろ。そう言った。

 どんな呪力士でも、国を丸ごと呪うなんて出来ない。だから、国王以下爺共は失笑した。


 まあ、当然だろう。だって、私は見た目は18の小娘なのだから。

 国王は、面白そうな表情のまま私を上から下まで見る。まるで物の価値を計るように、不愉快な目を向けた。そして、我が国に仕えるというならば叶えてやってもよい、と言った。人間が精霊となったのだ、利用価値は計り知れないと思ったのだろう。

 だから、私は。――思い切り嗤ってやった。

「はははははっ。貴様等は何も分かっていないらしい。お目出度い、哀れな奴等だ。私は貴様等にチャンスを与えてやったのだよ、国が滅びぬようにな。それを無碍にするとは……第一、貴様のような者に従う気もない。――まあ、いい。もう一度チャンスをやろう。無関係の民を巻き込むのも忍びない」


 そう言って私は、この謁見の間にいる全ての人間に呪いを掛けた。

 私の命令・・を聞き入れるというならば、弟に連絡せよ。いつまで持ってやろう。そう言って。

 弟を抱き締めた私は、精霊王に転移して貰い、屋敷に帰った。


 連絡があったのは、それから僅か二日後だった。


 思ったより保たなかったな、とほくそ笑み、弟には臣下の礼を取らぬよう言い含めた。此方が上だと分からせるためだ。

 僅か二日で憔悴しきった国王達は、私に屈した。聞き入れる代わりに、呪いを解いてくれと頼まれたので、解いてやる。

 但し、弟を暗殺しようとしたバカには、更に呪いを追加した。土下座するバカに、弟が追加分は止めてあげてと言うので、仕方なく現状維持にした。

 呪いの内容を弟に聞かれたが、内緒だとウインクした。


 その後、不正の証拠を提示し一週間後にはメディアンス家の人間が王城に呼ばれた。……罪人として、だ。

 私が姿を現せば、クズ共は驚愕に顔を歪めた。それはそうだ、死んだ人間が目の前に現れたのだから。呪いだって、姿だけは夢以外じゃ晒さなかったのだから。

 コイツ等は、正式な罪を背負う。それに私は、呪いを付け足すだけだ。

 弟は、すでに荷物を纏め家を出ている。

 売女母娘には醜い容姿になるように、バカ親には金が離れるように、そして三人とも生き地獄の人生になるように呪った。簡単には死なせない。老衰以外の死は認めない。一生苦しめ。

 媚びてくるクズ共に、私は冷たい嘲笑を送った。



 クズ兄にも、呪いを掛けた。早漏と不運と女運の悪さで、まあ騙されただけだからと温情を掛け、どれも軽い物だが。とは言え、未だ私を愛してるなぞ宣うので、甘い毒のような言葉で、私に縛り付けた。騙されただけなのだから、特別に軽い物にしてあげる、と。熱っぽい目で見て来るクズ……いや、兄だが、許すとは言っていない。精々私の影に振り回されてしまえばいい。


 裏切り者は、夜会にて制裁を下す。これも騙されただけとも言えるが、幼い頃から洗脳のように言われ真実も知る事が出来ないクズ兄とは違い、最終的に選んだのは裏切り者だ。早漏、不運、不幸、女運も金運も悪く、男色家に狙われるようにした。醜い容姿にしてもよかったが、それはつまらないし止めた。苦しめばいい。

 まあ、呪われても君を愛してる、なんてバカな事も言っていたが。何故か兄と対峙した辺りから不機嫌な精霊王が顕現して、私を抱き締めキスをかまし所有発言をした。この世のモノとは思えぬ美貌に、皆放心し半数は失神した。まあ、私が精霊王の物であるのは事実だが、キスの必要はなかったと思う。

 初めてだったのに、と呟いたら聞こえたようで、精霊王は上機嫌で弟の下へと転移した。



 復讐は、完了した。最後の仕上げに、有名な吟遊詩人にこの話の真実を語らせ、正真正銘の終わり。


 私は精霊王と弟と共に、度へと出た。弟に許可を貰い、不老不死の呪いを掛けて。共に生きていくのだ、私達は寿命がないからただの人間である弟はこうでもしないと無理だ。私の呪力だから生きるのが辛くなったら呪いを消せば普通の人間に戻る事は簡単なのだ。気楽にやろう。


 復讐は終わったのに、願いは叶ったのに、この胸にある虚無感はなんだろう。昏い達成感は、想像とはちょっと違う。

 終わって、気が抜けたのか。人間嫌いが無関心になりつつある。やる気も起きない。

 そんな鬱状態の私を立ち直らせてくれたのも、やはり二人だった。二人の私を気遣う気持ちが、私に初めて涙を流させた。凍った心は、恥も外聞も気にせず大泣きし、溶かされた。



 二人の男に裏切られ、二人の男に支えられた。皮肉なものだ……。


 これからは、幸せの旅をしよう。もう憎しみは納めよう。私は二人といるだけで、たくさんの幸せを見つけられるのだから。


 リリアナ・メディアンスは名も無き亡霊となり、呪を司りし精霊となった。

 私は、二人に貰った新たな名で、歩みゆく――――。




どうでしたでしょうか?あまり暗いのは好きではないので、あまり詳しい描写は控えました。ただ、復讐を決めたら徹底的にやる主人公が書きたかっただけって言う。

ただ呪を司る能力な主人公が書きたかっただけです。ぶっちゃけこれはプロローグ的な内容です。



※補足説明


主人公:艶やかな漆黒の長い髪に深紅の瞳と雪のような肌の美人。スタイルも美巨乳に細腰に美桃尻に美脚で抜群。但し雰囲気が暗く儚いので目立たない。基本露出の少ない格好で、下着は大人←。

中身は良くも悪くも普通だったが我慢強さは折り紙付き。ぷっつんしてからは弟と精霊王以外は塵芥以下としか思ってない。と言うか興味がない。

能力、と言うか呪力士としての才能が異常にあったのを、無意識に抑えつけていた。利用されフラグを叩き折ったんだぜ。それに、巨大すぎる才能は危険だと本能が理解していた。

 弟ラブ。精霊王ラブ。ドン引きレベルのブラコンで、弟は最愛で守護対象。精霊王は自分の所有者だと認識してる。どっちにも恋愛感情はない。と言うか主人公の感情は所々欠落してる。


弟:太陽のような黄金の髪に海のような深青の瞳のかなりの美少年。主人公とはあまり似てない。動きやすい格好が主で、背は主人公以上精霊王未満。結構鍛えてるので筋肉はあり、細マッチョ。

中身は姉至上主義。崇拝してる。姉に害する奴は許すまじ。な、何を置いても姉優先の主人公以上の超絶シスコン。精霊王は認めてるが義兄になるのはダメだ。

剣も魔法も出来る勇者スタイルで、良く言えば万能な器用貧乏。ただ魔法は兎も角剣と槍の才能は高く、前衛型。魔法は凡庸。呪力は実はちみっと使える。

姉と結婚したい。姉に操を立てている。姉以外の女はいらない。以上ッ!


精霊王:様々な色に煌めく純白の美髪にオパールのような七色に煌めく瞳のとんでもない美男子。背は高めでスタイルは同性すら憧れる理想的な肉体美。女に見えないが女装したら絶世の美女になる。

実は俺様。自由人。結構おっとりしてる。主人公大好き!な甘えん坊。弟も好きだが主人公は譲らん。

何でも出来る。以上ッ!

実は主人公には一目惚れ。一緒にいたら好きになった。なら自分に縛っちゃえごめんね。許してくれて嬉しい。マーキングなのかよく主人公を甘噛みする。実は初な子。


主人公が結婚させられそうになった伯爵は、有名な変態爺。加虐趣味がある。

バ家族は労働奴隷となり、呪いのせいで廃人寸前。元婚約者は女運のなさと噂により碌な女性と巡り会えない。兄は主人公探して放浪ちう。

継母が部屋で色々暴露しちゃったのは、バカ父がうっかりバラしちゃったから。家族は知ってる事だったし息子と使用人が文句を言えるはずがない。そして唯一文句を言える元婚約者は、裏切った張本人だし、主人公から妹に乗り換えたので、被害者も加害者も同じ家だから滅多な事は言えない。何故ならスキャンダル確実で、ややこしいし主人公以外から何かしら要求される場合もあるから。だから、何か言われるはずはないと確信しバラした。意外と考えてるようです。



内容が薄い?でも主人公を辛い目に遭わせるのって結構大変。ハッピー好きには辛いっす。

大体こんな感じですか?これはプロローグ的な話で、実はここからが本編だったり。でも連載が二本あるので短編投稿。要望があれば書く……かも?です。

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― 新着の感想 ―
[一言] シリアスでしたが、最後に主人公の心が解放されて良かったです。弟と精霊王が主人公を愛しちゃってるのがいいですね! 面白かったです(o^-')b ! 続きがあったらぜひ読んでみたいです!
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