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第7話:「先に聞く」を実践——13人の評議員との個別面談

翌朝、秀継は城下の地図を広げ、評議員十三名の屋敷の位置を確認していた。

訪問順を組みながら、昨夜エキが言った言葉をもう一度頭の中で転がす。


正しさより、順序。


六十年間、自分が通してきたやり方とは真逆だった。データを揃え、論拠を積み上げ、反論の余地をなくしてから人の前に立つ。それが正しいと信じてきた。間違っていたとは思わない。

しかしこの国では、まだ自分に実績がない。正しい数字を持っていても、秀継を信じる土台がこの国にはない。


昨日の評議会で学んだのは、そういうことだった。


田中電機では、反対意見を数字で封じることができた。それでも首を縦に振らない者には、席を退いてもらった。二万三千人の雇用を守るための判断だったのだ。

間違っていたとは思わない。しかし今、目の前にいる十三人は部下ではない。切ることも、別の人間で埋めることもできない。あの評議会そのものが、この国だ。


出口のない部屋では、やり方が変わる。


秀継はペンを持ち、訪問順の横に一行書き足した。


〈先に聞く〉


扉を叩く音がした。


「どうぞ」


入ってきたのは騎士団長カレインだった。昨日と同じ軽鎧姿のまま、部屋に入って三歩、片膝を床についた。形式として知っているのではなく、身体に染みついた礼だった。


「昨日の無礼、深くお詫び申し上げます」


秀継は地図から目を上げなかった。


「わかりました。顔を上げてください。昨日の続きを話しましょう」


一秒も置かなかった。


カレインは立ち上がりざま、一瞬だけ表情が揺れた。強張っていたものが、すとんと落ちたような顔だった。その揺れはすぐに消え、次の瞬間には鋼のような目が地図に向いていた。


「評議員の個別面談を始めます」と秀継は言った。「あなたの見立てを聞きたい」


「何をでしょう」


「昨日の評議会で、賛成に転じる可能性がある者はいますか」


カレインがわずかに眉を動かした。


「少し難しいご質問ですね。陛下の見立てを先に伺えますか」


「昨日、会議中に全員の様子を記録していました」


秀継は観察メモを広げた。


「採決の直前、資料に目を落としたまま手が動いていた者が三名いた。ハルティン、オルダ、ゴードン。うち二名は途中で帳面を閉じましたが、ハルティンだけは最後まで手が止まらなかった。あの動きは、反対を決めた人間のものではなかったと思います」


カレインは一度視線を落とし、何かを確かめるように間を置いた。


「……ハルティン評議員は、是々非々で答弁ができる方です。三年前の予算凍結の際、一人だけ反対意見を出していました。数に負けましたが、翌年の記録では彼の判断が正しかった。自分の見立てを信じる傾向がある。昨日も迷っていたのではなく、確かめていたのだと思います」


「迷いと確認の違いは」


「迷う人間は顔を上げます。確認する人間は、顔を下げたまま手が動く」


秀継は記録した。


この女性の観察眼は、自分とは異なる種類のものだった。秀継が記録するのは数字と行動だ。しかしカレインが見ているのは、その手前にある人間の状態だ。同じ場所を見ながら、見えているものが違う。


「他には」


「採決の後、クロスとベネットが廊下で話していました。同じ区画に屋敷を持っていて、長い付き合いです。あの二人は意見を揃えて動く。どちらか一人を崩しても意味がない」


「どちらが先に考えを変えるタイプですか」


「クロスです。ベネットは人の顔を見てから決める。クロスが変われば、ベネットは変わります」


秀継は評議員十三名の配置図を地図の横に並べ、訪問順を書き直した。過半数は七。まず動ける者から動かし、その動きで次を引き出す。


「ラドウィグはどう見ますか。昨日、腕を組んだまま一度も手が動かなかった」


「彼には、複雑な事情があります。―――十八年前の難民区の暴動で、部下を二人失っています」


秀継はペンを走らせた。そこで止まった。


「それは資料に載っていませんでしたね」


「現場にいた騎士団では有名な話です。難民への支援を増やす提案と聞いた瞬間、顔が変わった。損得の話ではないと思います」


資料にない変数。昨日の分析に、最初から穴があったことになる。国家の損得だけで動くと思っていた。しかし数字の前に、十八年間積み上がったものがあった。あの腕を組んだ姿勢の意味を、自分は読み違えていた。


秀継は帳面に書き込んだ。


〈ラドウィグ——十八年前の暴動、部下二名死去〉


数字ではない。しかしこれは、数字と同じ重さを持つ情報だ。


「今日は、謝罪のために来たのですか」


「陛下が評議員を説得するために動かれると、エキ宰相から聞きました」


「聞いた上で、来た」


「はい」


それだけだった。


理由を説明しない。問われもしないのに動機を語らない。この女性の言葉は、いつも必要な分だけしかない。


秀継はペンを持ち直した。


「一つ聞いていいですか」


「どうぞ」


「昨日の評議会で、場が動いた。票を持たないあなたの言葉に。なぜだと思いますか」


カレインはわずかに重心を変えた。


「……私にはわかりません」


間があった。


「ただ、人は言葉より前に何かを見ています。何を見ているかは、私にも説明できない」


秀継は帳面を開かなかった。


秀継は、初めてカレインの顔を正面から見た。


「生前、私には実績があった。長い時間をかけて積み上げてきたものが、言葉の後ろにあった。だから言葉が通った。しかしこの国で、私にはまだ何もない。あなたにはある。私にはない。——それが昨日の差です」


沈黙があった。カレインは何も言わなかった。言葉を探しているのではなく、何かを確かめているような間だった。


「陛下は」とカレインはやがて言った。「昨日の今日で、なぜ動けるのですか」


問いの意味を、秀継は一瞬だけ考えた。昨日敗れた人間が、翌朝また動いている。この女性にとって、それは自明ではないらしい。


「負けた理由がわかったので」


それだけ答えて、秀継は地図に視線を戻した。


カレインは一度だけ秀継の横顔を見てから、扉へ向かった。廊下へ出る手前で足を止める。振り返らないまま、少し間を置いた。


「部下の話を聞く王を、私は初めて見ました。―――――私がいた国では」


それだけ言って、カレインは廊下へ消えた。


秀継は帳面を開いた。ペンを走らせかけて、止まった。


言葉にすべきことが、言葉にならない。


六十年間、帳面に書けないことはなかった。数字か、言葉か、どちらかの形に必ず落とせた。それが自分のやり方だった。


しかし今、ペンが動かなかった。


しばらく、そのままでいた。


廊下の足音が、遠ざかっていった。城の石造りの廊下は音がよく通る。規則正しい足音が、少しずつ小さくなっていく。聞こえなくなってから、もう少しの間、秀継はペンを持ったままでいた。


帳面を閉じた。


今日、十三人に会いに行く。


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