第8話 二度目の涙
明くる日の早朝。私はテレサ様から頂いた宝石や衣類を身に纏い、精一杯の正装でそっと玄関を開ける。外は薄暗く、冷たい空気が頬を撫でる。
「行くのかい?」
「ふえ!?」
背後からの声に肩が跳ねる。見ると、背後にコヴィ様が静かに立っていた。私の考えなど筒抜けだったらしい。顔が赤く染まってしまう。
「あはは、バレてましたか……」
「実のところ、拒否権なんてありゃしないけどね」
「ですよね。ま、直接文句を言ってやらないといけないから」
恐怖と緊張で縮こまる胸を張って、ふうっと息を吐き出す。私は覚悟を決めたんだ。
「テレサお母様が殺されたのに、今の今まで何やってたんだって」
「親孝行なこった」
私に対して呆れたのか、哀れんだのかはわからない。コヴィ様は目を閉じて天を仰いだ。
「行ってきます!」
「はいはい」と素っ気なく背を向けた彼女に向かって、私はとびきりの笑顔で叫んだ。
「下手くそな料理を作って待っててね。母さん!」
ピタリとフリーズするコヴィ様。数秒後、沸騰したヤカンのように顔を真っ赤にして振り向く。
「娘はもう死んだんだよ! 二度と来るな!」
「またね! 母さん!」
「ぶっ殺すぞ!!」
「やーん、コヴィ様ったらこわーい」
「…………」
ヤバい、目が完全に血走ってる。これ、マジギレする時のやつだ。というわけで、私は脱兎のごとく急いで走り出した。遠ざかるバタバタとした足音を聞きながら、彼女は誰に届くわけでもない声で静かに呟いた。
「……戻ってこれないんだよ。きっと、あんたはもう」
潤んだ瞳が、日の光を反射する。あの冬以来、二度目の涙だった。




