第5話 兵士ってどうして会話のキャッチボールができないんでしょうね
「えぇ!? 本当なんですか!?」
思わず素っ頓狂な声が漏れた。そういえばテレサ様も、行方知れずだと似たようなことを口にしていた気がする。
「父様のこと、ご存知なの?」
「そりゃあ有名人だからね。残酷で、強い王だ」
ぶっきらぼうな物言いと、ふいに険しくなった横顔。どうやらコヴィ様は、私の父親をひどく嫌悪しているらしい。
「可哀想な子だね。その歳で両親がいないなんて。今日は特別にケーキでも焼いてやるよ」
「ケーキ? またあの消し炭みたいなやつを作るんですか?」
「牧草の塩茹でにするかい?」
「ケーキでお願いします!」
そんな話をした、その日の午後。庭で洗濯物を干している時だった。
——ドガラッ! ドガラッ!
「な、何事!?」
地鳴りのように遠くから響いてきたのは、重く規則的な馬車の音だ。土煙を上げて近づくその響きに、嫌な胸騒ぎがした。
「中に入ってな」
鋭い声とともに、コヴィ様が庭先に立ちはだかる。窓越しに見えるその広い背中は、明らかな怒りで強張ってる。
「おい、どの面下げて来やがったんだい」
「ご苦労だった」
「それで済むと本気で思ってんのか? ふざけんじゃない、ここまで誰がこの子を育ててきたと思ってんだ」
「報酬が払われるか、確認しておく」
近くにいなくたって分かる。コヴィ様の頭の中で、血管がプチンと切れる音が聞こえる。
「あんたら、人間の心ってもんがあるのかい!? 今の今まで放置しといて!」
どれだけ声を荒らげても、兵士たちは全く動じる様子がない。歴戦の兵ゆえの落ち着きもあるんだろうけど、どこか異様だわ。
「すべては王のご意志だ」
「あの子がどんな姿でここに来たか、知ってて言ってるのか!? 泥と鼻水にまみれた、みっともない姿だったんだぞ!」
「穏便に済ませたほうが得策では? 争っても損しかないぞ」
彼らの瞳には、一切の感情が映っていない。血の通った人間ではなく、ただ主人の命令を遂行するためだけの冷たい歯車。私は息を呑むしかなかった。




