第3話 後天的ヴィーガン
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「起きろ」
それから約十年後。腹に響くような低い声と共に、私の被ってる布団が剥ぎ取られる。
「すみません、寝坊しました!」
「二日連続だろ。反省したふりはやめな」
「面白い小説が手に入りました。たまたま立ち寄った行商人からもらいました」
「いいから顔を洗ってこい!」
呆れたように腰に手を当てるその女性、コヴィ様。三十を超えた彼女は、クリームパンのような分厚い手で窓を開ける。朝の光と共に、土の匂いが流れ込んでくる。
高級なベッドはないけれど、ここには確かな生活の温さがある。
「あんた、また背が伸びたね」
「ありゃ? そうですか?」
「早いもんだね。あのチビが、あっという間にデカくなっちまった」
黒く焦げたパンを木皿に放り投げながら、コヴィ様は目を細めた。私を拾い、育ててくれた恩人。ここ数年で体重が子熊並の大台に到達した。同じ粗食を食べているのに、この人はどうして四方八方に育つんだろう。
「おまけに出会った頃から料理の腕は最悪だし。性格は大分直ったのに」
「聞こえてんぞ」
出会った頃の彼女は、ヒステリックな暴君のようだった。だが、前世で培ったお局キラーとしての処世術をフル活用し、徐々に懐に入り込んだ。
「出るとこ出てきたね。肉を食わなくても、案外大きくなるもんだ」
「ひゃんっ!」
このババア、私のケツ触ったな! 触ったっつうか鷲掴みしてる!
「コヴィ様、それセクハラっていうんですよ」
「小説の知識かい? 生憎、私相手にひけらかしても意味はないよ」
違えよババア、これだから異世界人は……って小声を出していると、ゴツンと殴られた。地獄耳め。
「いつになったら動物を食えるようになるんだか」
「……」




