第18話 泥まみれ
男は下劣な笑みを浮かべ、倒れたジュレンから私へと標的を変えた。逃げる間もなく、髪を鷲掴みにされる。
「痛っ……!」
「艶のあるブロンドしてんじゃねえか。俺は昔から、光り物を集めてんだよ。後で巣に持ち帰って可愛がってやるから、いい子にしてな」
必死に抵抗する私の視界の端。地面に伏したジュレンの傷口から、どす黒い感染がさらに広がっていくのが見えた。このままじゃ、彼が死んじゃう……
「離して! 何が魔剣よ、殺し合いよ!」
恐怖とパニックで、私は半ば錯乱しながら叫んでいた。男はまるで壊れた人形でも見るかのように苦笑する。
「私たちには、こんなの関係ない! 巻き込まないでよ!」
その言葉を聞いた瞬間、男の顔からヘラヘラした薄笑いが消えた。
「……チッ」
忌々しげに舌打ちをすると、掴んでいた私の髪を乱暴に振り払った。地面に無様に投げ出され、泥まみれだ。
「温室育ちが。お前らの意思なんて、この世界には関係ねえんだよ」
私の顔のすぐ横の地面を、苛立ち紛れに強く蹴り上げる男。土混じりの水が、身体中にまとわりつく。
「私には関係ないだぁ? 安全な場所から目を逸らして、何も知らねえフリをしてるだけだろうが! 世界は元から理不尽で、汚えもんで溢れかえってんだよ!」
「……っ!」
「そもそも、お前だってまともな人間だなんて言い切れるのか? あん?」
水面に自分の姿が映る。我ながら不恰好ね。枯れた笑い声を出さずにはいられなかった。
「そうね……私は昔、憎まれ者の悪徳令嬢だったわ。いえ、今も本質は大して変わってないのかも」
「ほう、そりゃあ罪深いことで」
新しく与えられた人生でなら平穏かつ綺麗に暮らせると、心のどこかで無邪気に信じ切っていた。でも……転生しても世界の残酷さは不変で普遍なのかもしれない。




