第16話 避けられない戦い
「逃がすかよ!」
嘲笑うような声と共に、背後から風が迫る。速い。剣が、私の真後ろから振り下ろされた。
ーー殺される!
ぎゅっと目を瞑った瞬間、ガキィッ! と鼓膜を劈くような硬質な金属音が森に響き渡る。
「仕方がない」
「……え?」
恐る恐る目を開けると、私の目の前にジュレンが立ち塞がっていた。彼の右手には、いつの間にか、透き通るような美しい白銀の剣が握られている。
「チッ、こいつ隠してやがったな!」
完全に不意を突かれたんだ。ジュレンの剣の鋭い弾き返しを食らい、男は勢いよく後ずさった。
「下がれ、アイサ!」
ジュレンが叫び、男に向かって踏み込んだ。凄まじい斬り合いが始まる。きっと鍛錬を重ねたのだろう、ジュレンの太刀筋は洗練されている。が、男の剣戟は獣のように荒々しく決して引けをとらない。実戦で鍛え抜かれた、独特の動きを感じる。
「おらあッ!!」
強烈な力任せの横薙ぎ。ジュレンが大きく体勢を崩す。
「……くっ!」
これ以上間合いを詰められれば押し切られる。そう判断したのか、ジュレンは突如として謎の構えをとる。突如、彼の剣先から猛烈な吹雪が巻き起こった。
「うお!?」
周囲の気温が一気に下がると同時に、鋭い氷の礫によって、男は後方へと押し戻される。
「これは一体?」
「僕の能力らしいね」
「すごい。やった……!」
ぶっちゃけ剣から吹雪とか意味わかんないけど、もう何が起きても驚かない。でも……私が安堵の声を漏らした、その時だった。
「それがお前の魔剣か! 酒でも冷やすにはもってこいだな、オイ」
男はダメージを受けながらも、口元をニヤリと吊り上げた。まるで、確実な勝利を手にしたかのように。
「っ!? なんだ、これは?」
苦悶の声を漏らし、自らの腕を押さえるジュレン。先ほどの斬り合いで、男の刃が彼の腕を浅く掠めていた。そのわずかな傷口を中心に……まるで墨汁を垂らしたかのように、赤悪い痣が急速に広がっていく。




