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金属がぶつかり合う音が、低く響いた。

カチャ。カチャ。

私は鉄格子の向こうで目を覚ました。

汗と湿った土、そして錆の匂いが鼻を刺す。両手首には手枷、足にも同じように枷が嵌められている。短い鎖が動きを制限していた――座ることはできるが、逃げることはできない。

周囲には人が並んでいた。

私と同じように檻に閉じ込められている者。

そして、その外側に立つ者たち――身なりは整い、清潔で、興味深そうな視線を向けている。

その視線は、遠慮なく檻の中の身体をなぞっていた。

値踏みするように。

――奴隷市場だ。

喉が鳴る。

私は、見世物にされている。

年老いた男が、私の檻の前で足を止めた。

高価そうなローブ。指には金の指輪がいくつも嵌められている。

「半エルフか?」

「黒髪……東方貴族の特徴だな」

「庶子だろう」

「価値は高くない」

「値はいくらだ?」

「二百ゴールドだ」

商人は淡々と答えた。

二百ゴールド。

安い。

代わりはいくらでもいる。

私は視線を落とした。

手首の鎖が、鉄以上に重く感じられる。

そのとき、群衆が動いた。

ざわめきが静まり、代わりに前方から一つのはっきりした声が響く。

男が舞台に上がる。――主催の商人だ。

なぜか、見覚えがあるような気がした。薄く整った笑み。

何でも売り慣れている者の顔だ。

……人間でさえも。

「さあ、皆さま。お集まりください」

群衆が前へ詰め寄る。

「まもなく――特別奴隷イベントを開始いたします」

囁きが一斉に広がった。

「珍しい品らしい」

「上位魔術師だって噂だ」

「こんな時に限って金が……」

数人が私の檻へ近づき、厚い黒布を投げかけた。

世界が、闇に沈む。

檻が持ち上げられた。

鎖が激しく鳴り、乱暴な動きに体が揺さぶられる。

布越しでも歓声が聞こえた――近づくほどに、熱を帯びていく。

やがて、舞台の上に置かれた。

布が引き剥がされる。

光が、目を焼いた。

「特別奴隷、第一号――」

商人の声が会場に響く。

「東方貴族の特徴を持つ黒髪の半エルフ。

開始価格は――二百五十ゴールド」

歓声が弾けた。

再び、無数の視線が私を射抜く。

この舞台……明るい。

明るすぎる。

その光が、なぜか過去の記憶を呼び起こした。

――死ぬ前の、記憶。

かつて私は、こうして舞台に立っていた。

スポットライト。音楽。歓声。

何千人もの声が、私の名を叫ぶ。

歌い、踊り、笑う――すべては注目を集めるため。

私は有名なミュージシャンだった。

――セレブリティ。

女たちは簡単に恋に落ちた。

あまりにも簡単に。

人気は私を酔わせ、その役割を楽しんでいた。

私にとって、女はその世界の一部に過ぎなかった。

利用して、捨てるだけの存在。

振り返る必要すら、なかった。

その後に何が残るかなど、考えもしなかった。

――

「二百七十!」

「二百八十ゴールド!」

競りの声が、私を現実へ引き戻す。

再び歓声が上がる。

かつてと同じだ。

ただし――今、叫ばれているのは私の名ではない。

私は、もはや称賛される男ではない。

――商品だ。

見知らぬ男たちの前で売られる、

半エルフの女奴隷。

かつては、視線を楽しんでいた。

今は、その視線が肌を汚すように感じる。

舞台は同じ。

歓声も同じ。

違うのは、私の立場だけ。

そして今になって、ようやく理解した。

――選択肢を失った人間の価値が、

どれほど安いものかを。

「――四百ゴールド」

低く、かすれた声が前方から響いた。

太った男が一歩前に出る。

脂肪に埋もれた顔は深い皺に覆われ、指には無数の指輪が光っていた。

迷いは一切ない。札を掲げるその動きは、まるで当然の権利を主張するかのようだった。

ざわめきが一気に広がる。

「四百だと……?」

「半エルフに、あの値段?」

「正気か?」

「何か知っているのか……?」

貴族たちが顔を見合わせる。

舌打ちする者、苦笑する者。

その価格は高すぎた。

“商品”としての私には、不釣り合いなほどに。

競売人は目を細め、薄く笑った。

「四百ゴールド。前列のお客様からです。ほかにいらっしゃいますか?」

一瞬の静寂。

札を上げかけ、ためらって下ろす者。

小声で計算を始め、首を振る者。

――誰も、動かない。

「四百ゴールド……一回。」

沈黙。

「四百ゴールド……二回。」

私は、息を止めていた。

「四百ゴールド――」

カン。

木槌の音が、はっきりと響いた。

「落札です。」

小さな拍手と、失望混じりのざわめき。

競売人は男の方へ向き直る。

「おめでとうございます。特別商品第一号は、あなた様のものです」

男の視線が、ゆっくりと私に向けられた。

――値段に見合うかどうかを確かめるような、冷たい視線。

彼は懐から小さな袋を取り出し、競売人へ放った。

金属がぶつかり合う音。

「数えろ」

競売人は袋を開け、机の上に金貨を広げる。

黄金の輝きが、舞台の光を反射した。

その間に、男は檻の前まで歩み寄ってくる。

一歩。

また一歩。

私は反射的に後ずさった。

だが、背中はすぐに鉄格子にぶつかる。

手首の鎖が、かすかに鳴った。

逃げ場は、ない。

男は檻のすぐ前で立ち止まった。

欲情も、怒りもない。

ただ――所有物を見る目。

そして、唇が歪む。

不気味で、ねっとりとした笑み。

「なあ……」

低い声が、耳元に落ちる。

「お前、まだ処女だろ?」

ぞくり、と背筋を何かが走った。

その一言で、体中の産毛が逆立つ。

喉が詰まり、息の仕方を忘れる。

歓声は、もう聞こえない。

舞台は静まり返っていた。

残っているのは――

この男の視線と、逃げられない現実だけ。

私は、売られた。

そしてこの男が――

私の、新しい主人だ。

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