釣り改め竜宮城に行く
あの日以来竜宮城のことが忘れられない。いや、竜宮城じゃなくてサチのことだ。これは恋なのだろうか。この年になって自分の娘よりも若い少女に恋をしてしまったのだろうか。自分が信じられない。
細マッチョのイケメンになった部長のもとには、用もないのに女子職員がひっきりなしにやって来る。以前は目が合っただけでセクハラ扱いをしていたのに現金なものだ。
相変わらず妻は何故かいつも不機嫌で、娘は口をきいてくれない。とうとう夕食は私だけ別になった。昨日は仕事で帰りが遅くなり、暗いリビングでカップラーメンを一人で食べた。でも、今の私には希望がある。またサチに会いに行けるかもという希望があるだけで、明日も仕事を頑張ろうと思う。
待ちに待った次の日曜日、私はお金を持って南房総の砂浜に出かけた。
ちょうどカメ吉が他の客を乗せて海に潜るところだった。
「ちょっと待っててくれ兄ちゃん、また戻ってくるから」
大好きな釣りをすることもなく、砂浜で昼頃まで待っていると、カメ吉が来た。
「竜宮城に連れて行ってくれ。サチに会いたい。一万円持ってきた」
「悪いな兄ちゃん。前回は俺からのお礼も込めて一万円だったけど、本当は最低でも五万円必要なんだ」
私はコンビニのATMでお金をおろしに行き、五万円をカメ吉に渡した。
「まいどあり~! じゃあ行くぜ、乗りな」
カメ吉は私を乗せ、再び竜宮城に連れて行ってくれた。店の番頭に先週と同じ部屋に通されると、サチがビールをもってやって来た。
「次郎様、また来てくれたんですね! 嬉しいです!」
サチが花が咲いたように笑って、私の腕に抱きつく。
「わたし、お客様にご指名して頂いたのって初めてなんです。初めてが次郎様で嬉しいです!」
そう言ってサチはビールを注いでくれた。見てみるとサチの服は先週と同じままだった。
「わたし、この小間使い用の服しか持っていなくって。みすぼらしいですよね、折角来ていただいたのにごめんなさい。」
私の妻や娘は散々私のお金で服を買い、それを当たり前と思っている。なのにサチは頑張って働いているのに服ひとつ買うことが出来ない。
「良かったらこれで服でも買いなさい」
そう言って私は五万円をサチに渡した。
「こんな大金いただけません!」
サチはそう言うとお金を私に押し返してきた。
「でも、お気持ちとっても嬉しいです。次郎様大好きです」
サチが膝枕をして優しく耳かきをしてくれる。私はこのために、この瞬間のために生きているのだと分かった。サチがそっと耳に口づけをしてくれた。天にも昇る気持ちとはこういうことを言うのだろう。
膝枕されながらサチに聞いたところ、サチは幼くして両親を亡くし、この蛸壺屋に売られて住み込みで働いているそうだ。貧弱な体型のせいで給金の良い接客はさせてもらえず、いままで下働きばかり。給金どころかお小遣いすらもらったことがなかったそうだ。しかし先週、カメ吉が店の番頭に、どれだけ安くてもいいから私を飲ませてやってくれと言うので、誰も相手にしないサチに接客がまわってきたそうだ。
「次郎様のおかげで、この前わたし初めてお給金をいただきました」
サチが嬉しそうに言う。前回はカメ吉に一万円しか払っていないので、サチの手元まで届くのはほんのわずかな金額だろう。なんて健気な少女なのだろう。
夢のようなひと時はあっという間に過ぎ、カメ吉が迎えにやって来た。帰りがけに何か美味しいものでも食べるようにと、一万円をサチの小さな手のひらに握らせる。最初は困惑していたサチだったが、カメ吉が「そういうのはもらっておくのが礼儀ってもんだぜ」と言うと、ぱあっと笑顔になって私に抱きついてきた。
「次郎様、またお待ちしています!」
サチが笑顔で手を振ってくれる。自分を待っていてくれる人がいるというのは何と嬉しいことなのだろう。私は番頭に五万円を渡し、サチに服を買い与えるように言った。
カメ吉に連れられて送迎場に行く途中、蛸壺屋の裏を通ると、サチが大柄な女中に殴られて私が渡した一万円を奪い取られていた。
「カメ吉、蛸壺屋に戻ってくれ」
「やめとけ兄ちゃん。あれは蛸壺屋の中の話だ。客が口出しするもんじゃねえ。それに兄ちゃんが口出ししてさらにいじめられるのはサチだ」
「じゃあどうすればいい」
「そりゃあ決まってるだろ。昔から遊郭の女を自分のものにしたけりゃ身請けすればいい」
「身請け?」
「要するに大金を積んで女を買い取るってことだよ。まあ、兄ちゃんには無理な話だ。それが出来なきゃまた通ってやることだよ。さあ、行くぜ兄ちゃん」
カメ吉に砂浜まで送ってもらった後、私はカメ吉にいつも世話になっている礼だと言って、一万円を心づけとして渡した。
「兄ちゃんいいね。遊び方っていうのを知ってるね。サチのことは、何だ、俺もちょくちょく気にかけとくよ。じゃあな」
そう言ってカメ吉は海の中に戻って行った。
またお土産に『玉手箱』をもらった。
前回の玉手箱で部長は若返ってモテモテになった。今回私が開ければ自分がイケメンになってモテモテになるのだろうか。そうすればサチはもっと自分のことを好いてくれるだろうか。
とも思ったが、『玉手箱』を開けるとおじいさんになってしまうというのが定番だ。怖いので職場の40代後半のお局様にあげることにした。
お局様が『玉手箱』を開けて煙に包まれると、20代かと思うほど若返り、贅肉は無くなって身長が伸び、手足はすらっと長くなった。おまけにいままで板のようだった胸が膨らみ、艶やかな美女になってしまった。




