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三題噺もどき4

ドーナツ

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくろくじゅういち。

 




 窓を叩く音が聞こえてきた。

 どうやらまた雨が降り出したようだ。

 今日は夕方から、ずっと降ったりやんだりを繰り返している。

「……」

 夕方、起きたころには小雨程度だったのが、本格的に降り出して。

 それでも少しして止んだのだが、散歩に出ようと思ったタイミングで、また降りだしたのだ。

 そのせいで今日は、起きてから仕事をしてばかりだった。

「……」

 その仕事も今日に限って早々に終わってしまい。

 いつもの休憩の時間まで少々時間が余ってしまった。

 ので、手持ち無沙汰に何をしようかと適当にパソコンをいじっていた。

「……」

 ネットサーフィンは別段趣味でもないのだけど。

 その日その日のニュースを知ることは、色々と役に立つ。

 興味もないことばかりではあるのだが、知らないという事はそれだけで損をしているのと同じだ。……ま、そんなことを言っても知らないことは知らないので損ばかりしている事になるが。

「……」

 適当にマウスで画面をスクロールしながら、昨日から今日までのトピックを眺めている。

 スポーツ欄では、この国のチームが勝ったのか負けたのか、バレーが大きく取り出されていた。ついで野球とサッカーあたりか。

 運動は必要最低限で良いと思っているので、こういうスポーツには全く精通していないのだけど……プロの仕草は見ていて美しいと思うものはある。

「……」

 他にも、天気の事や、政治の事。

 カルチャーやテレビの話題。

 少し前に仕事で調べ物をしたことについでもトピックが作られている。

 こういうのは多少便利ではあるが、情報をコントロールされているようであまり好きではない。仕方のないことではあるが。

「……」

 ふむ。

 しかしまぁ。

 興味のないことはこんなにも飽きるのかというくらいに。

 手を動かすのも疲れてきた。

「……」

 ちらりと時計を見る。

 休憩の時間にはまだ時間があるが。

 これ以上ここに座りっぱなしもよくはないし、眼も疲れてきたので。

 早いが、切り上げてリビングに行くとしよう。

「……」

 パソコンの電源を切り、椅子から立ち上がる。

 机の上に置いてあった空のマグカップを手に取り、自室を出る。

 廊下は冷えた空気が漂い、冷たい床が広がっていた。

「……」

 その先にあるリビングは、ほんのりと灯りがついている。

 お互い明るすぎるのも苦手なので、照明は多少の明るさがある程度だ。

 これで見えるのかというくらいだが、十分すぎるくらいによく見える。

「……」

 なんとなく足音を殺しながら、廊下を進んでいく。

 裸足のままの足裏に、冷たい床の感触が返ってくる。

 今月に入って、一気に寒くなったような気がするのだが気のせいだろうか。先月まで暑い暑いと言っていたような……。秋はどこへ行ったのやら。

「……」

 廊下から、リビングへと繋がる扉を、ゆっくりと押し開く。

 音が極力出ないように。

 息を殺して、足音を殺して、扉の音も殺して。

「……」

 小さく作った隙間からリビングを覗くと、そこには誰もいない。

 まぁ、当然。

 その反対側にあるキッチンに居るのだ。

「……」

 すん、と鼻を動かすと、ほんのり甘い香りが漂ってきた。

 何かを揚げているのか、じゅわじゅわという音が聞こえてくる。

 揚げ物をしているのなら、ここまで音を殺す必要もなかったか。

「……なにしてるんですか」

「……」

 まぁ、普通にばれるのだが。

 面白みもない。

 コイツの方が私よりはるかに耳はいいからな。

「何をつくってるんだ」

 キッチンからかかった声には答えず、こちらから問う。

 もう隠れる必要もないし、音を殺しても仕方ない。

「……ドーナツです」

 呆れながらも応えてくれるあたり、コイツは私に甘いのか何なのか。

 キッチンに立つその小柄な青年の近くに寄ってみれば、油の中にはふわふわと浮かぶ真ん中に穴の開いたわっかが浮かんでいた。

 時折それをひっくり返しながら、焼き色を見ている。

「今日はドーナツか」

「えぇ、たまには」

 今日の休憩は、胃もたれと食欲との格闘になりそうだ。





「……うまそうだな」

「まだ揚がるまで時間がかかりますよ」

「あぁ、リビングで待ってる」

「……お仕事は終わったんですか」

「終わったから暇してるんだよ」

「……ならトッピングの準備でもしますか」













 お題:雨・バレー・ドーナツ

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